第58話 異世界通信②
「――その場にセヴラルドさんという方はいらっしゃいますか?」
ルンから耳打ちされた名前を向こうに告げる。たしか、セヴラルドさんとは、ルンの一番上のお兄さんの名前だったはず。
『――は、はい! おりますが……、どうしてその名前を?』
おお! いるようだ。オレはスマホを片手に持ったまま、もう片方の手で丸のサインをルンに示す。
「――いるんですね! よかった! 詳しいことは後で説明します! とりあえず、その方と電話を代わってもらってもよろしいでしょうか?!」
オレはルンの側に近寄り、スマホを渡して通話を替わる。その際、スマホの通話をスピーカーモードに変更する。これで、オレたちにも会話の内容がわかるだろう。
「――セヴル
『――ルン!! 無事だったか! 良かった! 心配したんだぞ!! ルンは今どこに……』
どうやら、電話口の向こうにいるのは、本当にルンの兄であるらしい。
他の兄妹たちもその場に居るらしく、それぞれと電話を替わって、結局ルンは1時間近く会話を続けた。ルンの安否を気遣う声から、とりとめもない話まで。
そのすべての話に、ルンは涙を流しながら全力で応えていた。
ところで、ふと思ったが通話料金はかからないんだろうか?
異世界間の通話ともなれば、地球の国際電話なんかとは比べ物にならないくらい高そうなのだが……。
まあ、向こうからかかってきたのだ。オレは気にする必要はないだろう。
兄妹たちとひとしきり電話を終えた後、改めて向こうの電話の持ち主である佐藤真治さんと会話する。
それによると、やはり佐藤さんは異世界に飛ばされたらしく、それはルンがこっちの世界に来たのとほぼ同時刻の事らしい。
どうやら、佐藤さんは向こうの世界に行ってもスマホは通じるらしく、こっちの奥様にもこの件は伝えていること。そして、そのことが周りに知られると大騒ぎとなってしまいそうなので、奥様や子供たちには内緒にするよう言い含めていたこと。
こちらも、佐藤さんが突然軽トラごと姿を消したところが目撃されて、奥様からの失踪届をもって捜索の対象になっていること、その関連でご自宅にお邪魔し奥様からも話を伺ったことを説明する。
これで、佐藤さんの奥様が何か隠し事をしていたのではないかという疑念の正体が明らかになってちょっとすっきりした。
で、この電話が通じることは職務上警察の上司には報告しなければならないが、こちらもルンの事が世間に明るみになっては色々と問題があるためマスコミや一般には漏洩させないという警察上層部の見解を告げる。
今後も定期的に連絡を取る旨の約束を交わし、異世界間の通話は一旦終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます