第55話 謎の光

「認識阻害だと?!」


「そうです! この前みたいに撮影されないドライブレコーダーのアレように、ルンちゃんと話し合ったんです! 私がアニメで見せた『謎の光』をルンちゃんが発動できたんです!」


 なんと、『謎の光』とは、あの、アニメなどで映ってはいけないところに都合よく発生するキラキラのことか!

 

 どうやら、ルンは精神操作系魔法を使って、スマホを構えている人の意識を操り

故意にピンボケや逆光や光の反射が映りこむような構図で撮影されるように無意識領域に介入していたらしい。

 それに、ルンの顔を見た人たち本人にも記憶のフィルターをかけ、もし後でルンと再会しても同じ人物だと思われないような認識への阻害も同時に行っていたというのだ。


「そうか、それならオレの心配は杞憂に終わったわけだな。」


「うん。でも、あんなに人が来るとは思わなかったよ」


「そうだな。今日はマスコミの取材はないはずだったから、副署長たちも油断したのかもな。」


 見ると、副署長と交通課長、会計課長が真剣な顔で何やら話し合っている。その口の動きは、「判断ミスだった」とか、「俺たちのルンちゃんが……」とか、「これは例の措置を発動させなければ」とか、今回の騒動に対する反省会のようだ。

 なんか不穏な言葉も交じっていたような気もするが、まあ、ルンの事を心配しての事だろう。


 ってうか、なぜ会計課長は自分の業務と無関係なこの場に来ているのだろうか……。

 後から会計課の職員に聞いたところ、「交通安全パンフレットの費用対効果を会計課長として現場で見届ける義務がある!」とか言っていたそうな。そんなこと現場に出てもわからんだろうに。


 ふと気になり、オレはスマホを開いてSNSをチェックする。『丸舘市』『交通安全』で検索したところ、ルンの事と思われる、「交通安全キャンペーンの交通指導隊員のアニメ顔が美しすぎる」という書き込みが多数あった。


 だが、そこにアップされていた写真は、ルンの言う通り『謎の光』によって、顔がよく認識できないようなものばかりであった。


 さらに数時間後、オレは途轍もない驚愕に襲われる。


 なんと、ついさきほどまで数十を超える投稿があった某SNSのなかから、ルンに関するものが全て消えていたのだ。

 単にタイムテーブルに上がらなくなっただけかとも思い、先ほど同様に検索もかけてみたが、きれいさっぱり『該当なし』になっていた。


 ルンに確認すると、そのことに関しては「知らない」とのこと。それはそうだ。異世界から来てこちらのネットの改ざんまでできるようになるとは思わない。


 という事は……


 副署長→署長→県警本部長→警察庁長官→内閣府→某国???


 といった国境や官民をまたぐ超ホットラインが、ルンの記事を人知れずシャドウBANしたという事なのだろう。


 嗚呼、オレが風呂の動画を見たことがばれたら命が危ういかもしれない……。

 

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