第54話 渋滞の元

「写真撮影はご遠慮くださ~い!」


 あああ、交通安全週間のキャンペーンが大渋滞だ。


 パンフレットを配っているルンの容姿が評判になったのか、一目見ようと訪れたと思われる車の列が絶えない。

 SNSとかで拡散されたのだろうか? やばいな。ルンの写真があちこちに流出するのは避けたいところだ。


 見ると、ドライバーの多くはパンフレットを配っている緒方巡査ではなく、ルンの方に握手とか、写真撮影をお願いしている。


 緒方巡査がなんか不憫な気もするが、緒方巡査はルンに群がるドライバーたちを撃退すべく鬼の形相だ。うん、あんな顔してたら握手とかしたくないよな。普通に怖い。




 どうにかことを収めなければと交通整理を同期の早坂に任せて軽トラの方に戻ろうとすると、


「はいはい、写真撮影は禁止ですよ! スマホ出して! 撮った写真は削除してくださいね。公務執行妨害の適用もあり得ますよ!」


 おや、いつの間にか副署長が出張ってきて強権を発動しておられる。


 そもそも今日のイベントにルンを参加させるように指示を出したのは副署長だったからな。こうなる事態も予想していたのだろう。


 そして、


「はいはい、パンフレット受け取ったら速やかに車を進ませてくださいね!」


 やはりというか、交通課長もいる。その隣には、なぜか会計課長まで。おいおい、会計課長は事務員で警察官じゃないだろ? あなたは交通誘導をしてはいけないはずだと思うのだが?


 そうするうちに、配布予定のパンフレットは全て配り終わり、イベントはあっという間に終了となった。


 あ、まだルンの写真を撮ろうとしているドライバーがいるな。いくら副署長や交通課長が出張ってきても、100%防止したり削除させたりできたわけではないだろう。




 軽トラの側に戻ると、役目を終えて少し疲れた様子のルンと緒方巡査が一息ついている。


「ルン、大丈夫だったか? 変な奴に声かけられたりしなかったか?」


「私がにらみをきかせていたから大丈夫ですよ!」


 おおう、緒方巡査、さすがは警察官だな。近くで見ると、凄みを利かせた表情がいっそう怖い。

 中にはこういう表情で興奮する変態もいそうだが、そんな輩を見分ける手段もないし、仮に見分けられたとしても、それだけで逮捕するわけにもいかないしな。

 

 あ、いかんいかん。今心配するのは緒方巡査ではなくてルンの方だった。


「結構写真も撮られていたようだが? 面倒毎にならなければいいが」


「あ、わたし、『認識阻害』かけてたので大丈夫だと思うよ?」




「なに! 認識阻害だと?!」


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