第53話 交通安全週間

「お、おはよう」


「「つーん」」


 はあ。まだ口をきいてくれないらしい。


 ルンと緒方巡査の入浴シーンのドラレコ動画をオレが見てしまったことをまだ怒っているようだ。


 仕方ないといえば仕方はないのだが、これでは仕事に差し支える。


 今日から交通安全運動期間が始まるため、今日は交通課と共に、県道で街頭キャンペーンに行かなくてはならないのに。


「じゃあ、9時に出発するからな。いちおう違反切符も忘れないように」


「わ、わたしは何をすればいいんですか?」


 おお、さすがに仕事の話になると、ルンもその内容が気になるのか口をきいてくれるようだな。


「ルンは……そうだな。軽トラの横に立っていてくれ。交通課の人が停めた車が入ってくるから、それに愛想振りまいてくれれば。」


「私が側について教えます! だから、ルンちゃんは心配しなくて大丈夫ですよ。」


 緒方巡査がついてくれるならばありがたい。ドライバーに安全運転啓発のパンフレットを渡さなければならないのだが、ドライバーの停車位置によってはルンが軽トラから離れて渡しに行かなければならなくなるからな。

 ルンが軽トラの荷台からパンフレットを取りだして、緒方巡査が手渡すようにすればちょうどいいだろう。


「私が軽トラを運転します! 武藤巡査長は荷台に乗って下さい!」


 おや? もしかして、おパンツを見たこともバレたのかな?


 いや、あれに関してはオレは悪くない。ルームミラーを見た先に、たまたまおパンツがあっただけだ。


「それにしても、幌がある状態でルームミラーでは後ろが見えないはずなのに、何度もミラー見てるのっておかしいって思ってたんですよね」


  ギクッ


「油断した私も悪いので、これ以上は問い詰めませんが。これ以上見たりしたら、本当に責任とってもらますからね!」


 おおう、こわいよー。責任とれって言われてもな。

 

 下手な反論は自分の首を絞めることになると思ったオレは、貝になって黙々と出発の準備を整えた。


 よし、時間になったから出発しよう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あちゃ~、こうなったか」


 交通安全キャンペーンの行われる県道は、交通量が多い国道から少し離れたところにある。

 通行車両を止めてパンフレットを手渡す以上、交通量が多い所では通行の邪魔になるし何より危険だ。

 なので、比較的交通量は少なく、かつ、少なすぎない県道を選んで行われるのだが……


 何と、大渋滞になってしまった。


 どうやら、「アニメ顔の交通指導隊員がキャンペーンやっている」という噂が飛びかり、ルンを見ようと人々が殺到してきたようである……。



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