第52話 背徳の後

「お、おはよう……」


「おはようございます!」


「晴兄ちゃん! おはよー!」


 おかしい。


 なにがおかしいかって? この二人の態度だ。


 さっきのドラレコの映像からして、この二人はオレに裸を見られていることを分かっているはずだ。しかも、数日も前から。

 

 にもかかわらず、毎日何もなかったような普通の態度。オレの方が戸惑ってしまっているではないか。


「あ、武藤巡査長、今日はどうします? 業者さん来ますよね? その間、ルンちゃんはさすがに外出しなくちゃ工事できないですよね?」


 ああ、そうだった。今日はルンの部屋? の外壁たりうる防音パーティションの設置と、給湯室の奥に狭い簡易ユニットシャワー室を設置するんだったな。

 たしかにルンがいては、ルンは居住スペースから離れられないから工事の邪魔になってしまう。軽トラと共に出かけるのが正しい選択だろう。


「そうだな。じゃあ、今日は緒方巡査が軽トラを運転してルンと巡回パトロールしてきてくれ。オレは留守番してるから。」


「えっ! いいんですか! やったー! ルンちゃん、一緒にお出かけしようね!」


「うん! 志穂ねえちゃんとお出かけ!」


 そうして、二人はほほえましいやり取りを残して笑顔で出かけて行った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それじゃ、伝票は本署の会計課に回しておきますんでー!」


 そろそろ昼になろうかという時間、業者のリフォームは無事終わった。


 業者のトラックと入れ違うように、軽トラパトカーが帰ってくる。こっちも無事何事もなく帰所したようだ。







 駐在所に戻ってきた二人は、なぜか顔を真っ赤にしていた。


 オレが訝し気に見ていると、


「武藤巡査長……、見たんですか?」


「えっ?」


「ドライブレコーダーの映像! ほんとに録画されてたんですね! じゃあ、アレに映っていましたよね! 私たちの裸! 見たんですね!」


 どうやら、この二人は最初の日の入浴中にドラレコの存在に気付き、でも走行中じゃないと録画されないから大丈夫みたいな話をして、カメラの前でおふざけをしたらしい。タオルをかけたのは、なんか落ち着かなかったからだとか。


 で、今日のドライブパトロール中に二人でドラレコの機能を調べてみたところ、エンジンがかかっていなくても、そばで動く物体があればカメラが作動する事。そして、これはまずいとこれまでの映像を消そうとしたところ、映っていたはずの自分たちの入浴シーンがすでに消去されていたことを知り、それでオレがその映像を見て消去したのだという結論に至ったらしい。


「あ、ああ。たしかにちょっとは見てしまったが、それはやましい気持ちじゃなくてだな、その映像が他の人に見られたらまずいと思って……ははは」


「「もう! 武藤巡査長(晴兄ちゃん)のえっちー!」」



 その日、口をきいてもらえなかったオレは昼も夜も自分の官舎でカップラーメンを食べて過ごしたのだった……。

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