第49話 うちの旦那が異世界にいっちゃったようです③

 警察署に夫の失踪届を出しに来た。


 そのことを受付で告げると、「ああ、例の件の」みたいな反応をされて、刑事課の部屋に案内された。


 ここは取調室? 私が悪いことをしたわけでもないのに。でも、こういうとこしか個室はないのだろう。仕方がない。


 現れた刑事さんは、非常に申し訳ないといった顔をしながら、借金はあるかとか、職場とかでトラブルはなかったかとか、あるいはあの人が浮気しているとかそんな素振りはなかったかとかいろいろ聞いてきた。

 まあ、失踪した人がいれば通り一辺倒に聞く内容のようだから、特に気を悪くすることもない。


 その日はそれだけで終わり、私は捜索願に署名して警察署を後にした。

 捜索届なんか出してもあの人が日本で、というかこの地球上で見つかることなどないのはわかっているのだが。


 おっといけない、そんなことを思っていては、夫を心配する妻の顔が崩れてしまう。気を付けなければ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その数日後、今度は警察の人がうちに来ることになった。


 なんでも、『ダンジョン課』とかいうところの人らしい。


 娘が言っていたように、やっぱりうちの人の失踪と世界中にできたダンジョンとは何か関連があるのだろうか?

 って、それを調べに来るんだよね。そんなことがわかっていたら、とっくになんかの連絡が来ているはずだものね。


 この家に客が来るのも久しぶりだ。最近市内にできた全国チェーンのお菓子屋さんからケーキでも買っておきましょう。


 で、その当日。


 軽トラのパトカーに乗っている娘を見たことはないかと聞かれるが、あんなかわいい子を知っていたら今頃養子にしてるわとも思いつつ、知らないと答える。


 ああ、さっき家の中に案内しようとしたんだけど玄関先でいいと言われたのは、あの娘の事を知らないか聞きたかったからなのね。仕方がない、ケーキは後で私が全部ゲフンゲフン。


 で、このお巡りさんはこの前の刑事さんとは違って、夫はどんな動画をみていただとか、スマホをどんなふうに使っていたのだとか、コミケ? に行ったことはなかったかなど、およそ警察から聞かれるようなことではないような内容の事を聞いてくる。

 

 私が知らない内容の事もあり、思わず「夫に電話して聞いてみましょうか?」と言いそうになって慌てる。電話が通じることは夫から警察にも内緒だって言われていたのだった。


 どうも、このお巡りさんの話を聞いていると、どうやら夫が『異世界』に行ったのではないかという事を裏付けようとしているような雰囲気がある。


 思わず、すべてを話してしまおうかという衝動にも駆られたのだが、夫曰く「このこと異世界転移がばれたらマスコミとかうるさくなって、銀行に振り込む仕送りとかもできなくなるかも」と釘を刺されているので、口を噤む。


 で、お巡りさんのお話が終わったころ、きれいな女の娘が乗っている軽トラとうちの人が乗っていた軽トラが同じ形をしていることに気付いた。


 そういえば、うちの人は軽トラごと『異世界』に行ったんだったわね。そういえば、そこの娘軽トラに乗ったってどこか日本人離れしている顔立ちをしているわね~、異世界の女の娘とかもあんな感じなのかしら? などと思いながら、お巡りさんたちを見送った。


 夫よ! 秘密は守りましたからね! だから仕送りよろしくね!

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