第46話 訪問③

「では早速ですが、この女性軽トラの中のルンに見覚えとかはないですよね?」


 オレは、今回軽トラごと突然失踪したという佐藤真治さんのお宅に訪問し、奥様の秋美さんから話を伺っていた。


 先ほど、家の中に招かれたのだが、あえて玄関先で話を伺う事にしたのは、何よりもまずルンの事を見てもらいたかったからであるし、ルンにも話の内容を聞いていて欲しかったからだ。


「いえ……初めましてだと思います。こんなかわいい子、知り合いに居たら必ず覚えていると思いますので」


 まあ、これは予想どおりだ。


 他のこと。例えば、仕事関係でのトラブルはなかったかとか、借金はないかとか、他に女性の影が見えたりしていなかったかなど、通常の失踪に関わるような事柄は全て刑事課の方で聴取していたので、あえてオレからは尋ねない。


 それからオレは、とても警察からの聴取とは思えないような、ありとあらゆることを尋ねた。

 

 というのも、『世界とのゲートが繋がり、一人の異世界人が日本にやってきた。そして、それと対になるかのようにして一人の日本人が消えた。』という現象。


 消えた日本人――、佐藤真治さんは、おそらくは異世界に転移したのだと思われるが。

 

 オレが気になっているのは、「なぜ、それがルンであり佐藤さんだったのか」という点だ。

 どちらも、『たまたま』だったのか。それとも、何か理由があって次元間を移動する対象として『選ばれてしまった』のか。


 もし、選ばれたのであれば、『なぜ』選ばれてしまったのか。


 その、『なぜ』の部分について、今回の奥様からの聴取でなにかしらの手がかりが得られないかと思っているのだ。


 まずは、奥様はルンの事を知らないと言っている。ルンの方を見ると、こちらも首を横に振っているので、奥様のことは知らないということだ。


 これで、まずは事前にルンと佐藤家との間での関連はなかったという事が裏付けられた。


 ほかに分かったこととしては、佐藤さんは50歳という年齢ながら、オタク文化――アニメやラノベなどを好んで楽しんでいたとの事。

 さすがに、どんな作品を主に好んでいたのかなどまでは奥様は知らなかったが、それでも、佐藤さんが『異世界』という概念を知っていたであろうことはわかった。


 他には、佐藤さんはSNSをやっていて、自分から何かを発信するという事はしていなかったようであるが、「また知らない人から相談のDM来たよ~。」などとつぶやいていたことがあるらしい。

 ふむ、これは上層部に報告して、どんなやり取りがあったのかをアプリの運営会社に照会してもらわなくてはなるまい。

 

 ほかには特に特筆すべき事柄はないように思われてたのだが、最後の奥様からの一言、


「あ、そういえば、その軽トラ、覆面パトカーにカスタマイズされたうちの主人が乗っていたのとおんなじ型ですね」


 という話が妙に心に引っかかったのであった。



 

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