第44話 訪問①

「ごめんくださーい」


 昼食に出前の味噌ラーメンを食べた翌日、オレ達は失踪した人物の家――佐藤真治さん宅に、事前にアポを取ってお邪魔していた。


「丸舘署の者ですー。何度もすみませーん。お話をお伺いに参りましたー。」


 ここは上中岡駐在所の管内ではない。ここで駐在所の名前を出していらぬ混乱を招いては面倒なので、あえて丸舘署員を名乗る。まあ、嘘ではない。


 それに、既に刑事課の捜査員が通常の失踪事件として話を聞いているはずなので、こうして何度も伺うのも不信感を抱かれる原因になるかもしれない。

 きちんと最初から謝意を示しておかなければ。



 同行しているのは緒方巡査、それにルンだ。


 3人では軽トラに乗り切らないので、緒方巡査の乗る駐在所のパトカーも一緒かと思いきや、なんと今日は軽トラ1台で移動している。


「荷台に乗るのはお尻が痛いです」


 緒方巡査がむくれている。


 というのも昨日の夕方、交通課長から『特殊車両許可証』なるものを手渡されたのだ。

 国土交通省から発行された特殊車両許可証。その内容は、荷台に人を乗せて(8人まで)の走行可と言ったものだった。


 添えられた文面を見ると、どうやらこの許可証さえ持っていれば、車検も通るし8ナンバーへの変更も必要ないらしい。たしかに覆面パトカーと化した軽トラで8ナンバーを付けていれば目立ってしまい覆面の意味がなくなるのでまあ理解できる。


 で、理解できないのが『荷台に乗れる人数が8人まで』というところだ。こんな狭い荷台に8人。まあ、ぎちぎちに座れば乗れないこともないのだが、本来の車両定員の2名から大幅な増員だ。合わせて10人乗れるじゃないか。


 なぜこんなに人数を……と思いだし、指折り数えてみる。


「署長、副署長、刑事課長、交通課長、地域課長、警備課長、会計課長、それに緒方巡査……」


 ぴったり8人じゃねえか! 助手席にはルンが……いや、あの爺様たちの事だ。緒方巡査を助手席に追いやり、荷台にルンを乗せてキャッキャウフフしようとしてるに違いない!


 その折った指を見て緒方巡査も疲れ切ったような表情をする。

 



 そんな緒方巡査の顔を見るのがなんか気まずい。


 というのも。


 荷台に乗った緒方巡査は、椅子もないので荷台にバスタオルを敷いてその上に座っていた。床に直座りの格好だ。


 で、荷台の中ほどに座り、身体は進行方向を向いている。


 という事は、


 そう。緒方巡査のおパンツが軽トラのバックミラーにしっかりと映っているではないか。


 決してのぞこうとしたわけではない。ただ、警察官として後方の安全を確認するにはバックミラーを何度も見なければならない。その結果が、オレにとって眼福だったというだけだ。


 まあ、紺の制服に真っ白の三角地帯はとても映えて見えたという事だけ付け加えておこう。






「はーい」


 おっと、佐藤さんの奥様が応対に出てきてくれた。


 白い三角の事は頭から追い出さねば。


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