第40話 出前ラーメン①

 駐在所のお昼時。


 遊びに? 来ていた長谷川巡視員も含め4人で出前を取ることになり、結局味噌ラーメンを4つ注文した。


「はあぁ、本署だとなかなかラーメンの出前って取れませんからぁ、今日は来てよかったですぅ!」


 長谷川巡視員が喜びの声を上げている。


 そうか、本署だと確かに出前のラーメンはある意味ギャンブルだ。


 特に交通課なんてものは、出前の注文をしたとたんに交通事故の通報が入ることなど日常茶飯事だ。

 泣く泣く事故処理に出かけ、戻ってきたときには伸びきってスープの冷めたラーメンが待っているなんてことも多いのだ。


 なので、本署の連中は出前を頼む時は無難な丼ものにすることが多い。


 その点、駐在所なんてものは昼時の来所者なんてほとんどいないし、事件や事故が起きてもお呼ばれすることもそうそうない。まあ、皆無ではないのだが。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おまちどうさまでーす」

 

 おお、来た来た。


 この上中岡地域唯一の定食屋、『なかおか屋』の味噌ラーメン。


 この定食屋は味がよく、本署からは若干距離があるが、それでも本署の連中もよく注文するほどだ。何といっても、本署の留置所に拘留している容疑者のための食事、『官弁』も扱っているためその注文頻度も多く、警察に対する愛想も良い。


「おや、今日はこっちかい? 二人とも緒方さんと長谷川さんこっちにいる駐在所って珍しいねえ。それに、そっちは見ない顔だね。新人さんかい?」


 配達してきた食堂のおかみさんが、いつも本署にいる長谷川巡視員、そして駅前交番にいた緒方巡査に話しかけながら、最後にルンの顔を見て問いかける。


「はい! 私は先日こちらに異動になりまして! それに、長谷川さんは違いますけど、そっちの娘ルンは新人です!」


「そうなのかい? かわいい娘だねえ! これは、若い男どもがほっとかないねえ」


「あ、そういう面倒事もあるから、このことはルンのこと内緒ね!」


「はいはい。警察様の秘密を話して回るほど命知らずじゃないよ――、はい、これお釣りね。どんぶりは外に出しといてね。毎度ありー!」


 さて、会計も終わったし、さっそくラーメンにありつこうか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「緒方巡査、ラップの取り方大丈夫か?」


「私だって駅前交番で頼んだことありますから、大丈夫……だと思います」


「汁を制服に飛び散らかすなよ」


 出前のラーメン。

 

 とてもうまそうな姿をその前に表しているが、これにありつくには一つの障害を乗り越えなければならない。


 汁や麺がこぼれないようにどんぶりの上に張られたラップ。そして、それを固定するために輪ゴムがかけられている。


 その輪ゴムとラップを外す際、よほどうまくやらないとラーメンのスープが輪ゴムのチカラで飛び散ってしまう。


 「わたしは慣れてますからぁ、任せてくださいねぇ! はいはい、ルンちゃんのもとってあげるからねぇ!」


 うむ、ここは長谷川さんに任せておこう。

 



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