第39話 駐在所のお昼時
「戻りましたー」
精神的に疲れる聴取を終えたオレは、どうにか昼飯前の時間に駐在所に戻ることが出来た。
「「きゃー! かわうぃー! これも超似合うー!」」
なんだこの黄色い声は。
まあ、駐在所前に交通課のミニパトが停まっていたから大体の予想はついていたが、それにしてもはしゃぎすぎでは?
案の定、ルンの居住スペースにはレールカーテンが引かれ、中では衣擦れの音と女性の黄色い声。
どうやら、緒方巡査と長谷川巡視員がルンのファッションショーでもやっているのだろう。
それにしても、いくらカーテンを閉めているとはいえ駐在所内でうら若き女性が着替えるのだ。施錠くらいしておくべきではないのか? 急な来所者があったらどうする気だ。
「あ、武藤巡査長お帰りなさい! カーテン開けちゃだめですよ!?」
誰が開けるか! まあ、興味が無いわけではないが、制服を着た警察官があからさまなセクハラ行動などするわけがないじゃないか!
「なあ? 着替えさせるなら入口は施錠するべきじゃないのか?」
「あ、さっきまで施錠してたんですけど、先ほどまで恩田課長の奥様がいらっしゃってて、ルンちゃんの服を色々買ってきてくれたんです! で、お帰りになった時に鍵を開けて……」
「で、閉め忘れていたと」
「はい……」
はあ、オレも人の事は言えた義理ではないのだが、緒方巡査は警察官と言う自覚が足りないのではと思う事がしばしばだ。
だが、これでも自転車盗とかの検挙件数は地域課ピカ一なのだから人というのは見かけや性格だけによらないものである。
「ところで、昼飯はどうする? オレは出前頼もうと思ってるんだが」
「あ、私も出前にします!」
「あ、わたしもここで食べて行っていいですかぁ?」
長谷川巡視員は本署に戻らずここで食べていくらしい。
「食べていくのはいいが、
ルンの居住スペースを執務室内に作ったしわ寄せで、オレの執務机は緒方巡査と一つのデスクを二人で使っている状態だからな。応接スペースなんて、簡易テーブルとパイプ椅子しかない。
「大丈夫ですよぅー。私たち、ルンちゃんのお部屋で頂きますからぁ!」
まあ、そうなるわな。
「ルンも注文しよう。食いたいものはあるか?」
「えっと……ちゅうかそば? おやこどん? 名前は読めるけどどんなものかわからないよー」
それもそうか。田舎の食堂の出前用メニューに写真なんかついているわけがない。
見事に手書きのテキスト文と値段の数字しか商品情報がない。
「じゃあ、出前デビューですね! それなら、やっぱりラーメンでしょ!」
おいおい、緒方巡査……、異世界出身者にいきなり麺類は厳しくないか?
まあ、何事も経験か。
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