第38話 聞き込み

 ルンが熱を出して倒れた翌日、オレは駐在所のパトカーで聞き込みに出ていた。


 ルンは大事を取って駐在所で休ませ、緒方巡査が付き添っている。当然、軽トラもルンの側、駐在所の車庫に置いたままだ。


 今日一日、ルンと一緒にいることになった緒方巡査は、


「わーーーーーーい! ルンちゃんと二人っきりーーーーーー! なにしてあそぼうかなーーーーーーー!!」


 とはしゃいでいた。お前は小学生か。


 だが、先ほど国道で駐在所の方に向かう交通課のミニパトを見かけたので、おそらく巡視員の長谷川さんあたりが突入してきて、緒方巡査のルンと二人っきりと言う野望はむなしく潰えるだろう。







 今日のオレの聞き込み先は、例の軽トラごと失踪した場面をたまたま目撃し、ドライブレコーダーの動画をたまたま撮影した人のところである。


 その人の勤める会社にお邪魔し、受付の人に来意を告げる。

 

 その会社は、市内の総合商社というような会社で、警察署でもストーブやらLEDの蛍光ランプやらを発注しているところだ。

 

 応接間に通され、受付の女性が淹れてくれたお茶をすすっていると、ドアの外からなにやら声が聞こえてくる。


「—――――いやー、ぼくくらいになると、警察さんもその知識とか見解とか、何度も聞きたくなるんだろうねえ」


 ?


 なるほど、確かにこの人物には一度刑事課の人間が、目撃の状況の聴取やドライブレコーダーの動画のコピーをもらう際に、通常の失踪事件としての話を聞いているはずだ。 


 だが、今の物言いはなんというか……イラっと来る。


「いやー、お待たせいたしました。いやいや、ぼくくらいになると仕事が忙しくて、手短にお願いできますかねえ?」


 斉藤と名乗るその男は、いかにも忙しいです、わたしは仕事ができるんですというようなそぶりで応接室に現れた。

 ドアの隙間から、受付の女性が失笑しているような表情が一瞬見える。


「あ、お忙しければ結構です」


 オレはお茶を飲み干し、ソファーから立ち上がる。


「えっ? いやいや、少しなら大丈夫ですよ!」



 警察が話を聞きに行けば、露骨に訝しがるか、嬉々として喜ぶか、多くの場合対応が二つに分かれる。帰ろうとしたオレを慌てて引き留めるコイツは後者だろう。

 

 警察から話を聞かれることがうれしいのだ。たぶん、なにか謎の優越感を感じているのだろう。

 悪いが、そんな輩に向けてやる愛想はない。


 そして、こういうやつは得てして、想像で話を盛ったりとか、聞かれてもいないのに持論を語りはじめたりとか、話ばかりが長くなりその内容は薄っぺらか空っぽである場合が多い。


 仕方なく、オレはソファーに座り直し、刑事課の聴取内容とは違う内容、なぜそこを通ったのだとか、ドラレコを装着したきっかけだとか、ルンの能力とか異世界に関連が出てくるかもしれない、スピリチュアルや因果論的、時にはオカルトも含め、多方面からの話を進めたのだが、出てくる話は自分が有能だとか、ドラレコや車の自慢だとか、挙句の果てにはこの前パチンコで大勝ちしたとか、時間がないとかぬかしていたくせに長い話を聞かされ、全く時間の無駄であった。


「はあ、別の意味で疲れたな……」


 結局、たっぷりと無駄な時間を使わされたオレは、今日は夕食にビールを飲もうと心に決めて駐在所へとパトカーを走らせた。


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