第35話 昏倒
「ルンちゃん!」
アスファルトの路面から何かを読み取ろうとしていたルンが、いきなり頭を抱えて倒れた。
側にいた緒方巡査が直ぐに側に駆け寄り、ルンの身体を支える。
オレも駆け付けたいが、今は交通整理中。オレがこの場を離れれば通行車が倒れたルンに向かって行ってしまい、事故が起こるかもしれない。
「緒方巡査! ルンの意識は!」
「呼びかけに反応なし! 身体が熱く、ひどい熱です! 荒い呼吸! 心臓鼓動早いです!」
救急車? いや、ルンは異世界から来た人間だ。
本署に運んで、主治医? の大学病院の医師に連絡をして指示を仰ぐまでうかつなことはできない。
やばいな。この場では手が足りない。
ルンを抱えて軽トラの荷台に乗せるのには緒方巡査一人では厳しい。
ルンを病院に運ぶにも、オレは運転、緒方巡査は荷台で付き添い。となれば、駐在所のパトカーを放置することになってしまう。
人の手が必要だ。
「――上中岡移動から本署各課!」
オレは署内系無線機を取り出し、応援を頼むべく無線機に叫ぶ。
「――丸舘地域です! どうぞ!」
「――丸舘交通、どうぞ!」
「――丸舘捜査、どうした!、ルンちゃんの件か! どうぞ!」
各課の係長クラスが一斉に無線に応じる。刑事課はおそらく恩田課長だろう。
「――現在、例の失踪地点で見分中。同行している
「「「――了解!!」」」
各課一斉に返答してくる。あれ? 無線って一度に一チャンネルしか送話できないはずだが……。まあいい、ほぼ同時の時間差だという事で納得しよう。
すぐさま、パトカーのサイレンの音が聞こえてくる。おそらく側にいた誰かが無線を聞いてこちらに向かってきているのだろう。
「――丸舘地域より、上中岡移動! 他各員!」
お、呼びかけだ。
「――上中岡移動です! どうぞ!」
「――えー、
「――了解!」
さすが警察の上司だ。行動が早くて的確だ!
そんなとき、早くも応援のパトカーが到着した。
パトカーから降りてきたのは、早坂と交通巡視員。どうやら検問の場所はここから近かったらしい。
「武藤さん! 指示願います!」
「早坂はオレに替わって交通整理! 長谷川さんは緒方巡査と一緒にルンを軽トラの荷台に!」
「「了解(はい)!!」」
長谷川さんとは、早坂と一緒に来てくれた交通巡視員(女性)さんだ。緒方巡査とは、たまに署内で雑談している姿も見るので仲は悪くないのだろう。
緒方巡査と長谷川さんは、ルンを抱えて荷台に横たえる。
「よし、緒方巡査はそのままルンの介抱、長谷川さんは駐在所のパトカーを
運転して本署についてきてくれ」
「僕はどうしましょう?」
「早坂は、現状を無線で本署に送って、その後、あとをついてきてくれ!」
「了解!」
オレ達は、パトランプを点灯させ、サイレンを吹鳴させて急ぎ本署へと向かった。
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