第34話 実況見分

 オレ達は、署員からルンへの貢ぎ物? をいったん駐在所に置いてから、例の人物が軽トラごと失踪した現場へと向かった。

 

 オレとルンはパトランプを付けた軽トラ。緒方巡査は、めでたく修理から戻ってきた駐在所のパトカーに乗っている。


「むうー! やっぱり軽トラを3人乗りにしてください!」


 一人だけ別の車両になった緒方巡査がむくれている。無茶を言うな無茶を。



 現場の県道に着き、オレ達は軽トラの人物が失踪した現場を確認する。

 事故が起こってはいけないので、緒方巡査が交通整理をし、その間に軽トラを近くに停め、オレとルンで、アスファルトの路面に顔を近づける。


「どうだ、ルン? なにかお前の感覚で気づくことはないか?」


 実は、この現場の実況見分はすでに刑事課と交通課で終えているので、オレたちの役目といえばこの場にルンを連れてきて見せ、何でもいいから気づくことがないかを確認する事であった。


 アスファルトの路面を見せるのと並行して、タブレットの動画もルンに見せる。

この動画は、目撃者のドライブレコーダーに映っていたもので、画面の隅の方で大きな水たまりに進入した軽トラが淡い光に包まれて、一瞬でその場から消える映像が捉えられている。


「あ……! これ、この水たまり! 同じかも!」


 動画を見たルンが反応を示す。


 水たまり? そうか、そういえばルンは言ってたな。向こうの世界で森の中で角イノシシ? を狩っている途中で、水たまりに足を踏み入れた時に淡い光が体を包み、まるで水たまりに落ちていくような感覚がして気を失ったと。


 動画の中の軽トラも、水たまりに進入したとたんに光に包まれている。これは、関連があるのかもしれない。


「他には? 例えばこの路面とかに何か感じるとか?」


「ん~、ちょっと待ってね」


 ルンが路面に両手を付き瞑目する。


 ルンの服装は交通指導隊員のそれだから、はた目には女性警察官が何かを思い出そうと目を閉じている姿に見える、はずだ。たぶん。

 間違ってもオレに土下座していると思われないように気を付けなくては。


「武藤巡査長! そろそろルンちゃんのお相手を代わって下さい!」


 通行車両が途切れたところで緒方巡査がこっちに戻ってきた。ルンのお相手って。

 こっちは仕事をしている認識なのだが、どうやら緒方巡査はオレとルンがキャッキャウフフしているとでも思っているらしい。


 ここで突っぱねてはまた面倒臭いことになりそうなので、オレは素直に交通整理に向かう。



「あ、何か……。これは、戸惑い? 驚き? この感情はいったい誰の……? あ、消えた。もっと感度を上げて……! うあうっ!」


 突然、ルンが頭を押さえて倒れ込んでしまった。

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