第33話 丸舘署員との交流

「……やっぱり、こうなったか。」


 丸舘警察署の電話交換室。署の正面に停めた軽トラから半径5mに入るその部屋でルンに休んでもらっていたのだが、


「「「「ルンちゃん! これ食べる? おいしいよ!」」」」


「「「「このジュース新発売なんだ! 飲んでみて!!」」」」



 ルンの周囲には、まさに老若男女、警察官から交通巡視員から警察事務員、交通安全協会の職員まで、警察署に勤務するありとあらゆる職種の人間が取り巻いていた。


 そして、ルンの周りにはお菓子や飲み物がうずたかく積まれている。だれだ幕ノ内弁当を5つも置いた奴は。そのうち出前まで届きそうな勢いだ。


「あ! 晴にいちゃん! 志穂ねえちゃん! 見て見て! こんなにもらったよ! みんないい人だね!」


 お兄ちゃん呼びされたオレと、お姉ちゃん呼びされた緒方巡査に皆の視線が集まる。

 その視線の多くはうらやましいとかそんな感じであり、ルンに話しかけたくても他の人たちの壁に阻まれて話しかけられずにいた人たちは、一斉にオレたちの方に向かってくる。


 「どんな生活をしているのだ」とか「普段はどんなものを食べてるんだ」とか。

 最も多いのは「なんで保護先が上中岡駐在所なんだ」という内容で、オレの軽トラから離れられない旨を説明すると、意外にも皆すぐに事の次第を理解し、移動範囲の限られたルンに向けて憐憫の表情をむけるとともに、「絶対おうち異世界に帰してやるからな!」と署員たちの士気が上がっていく。


 ふと隣を見ると、オレと同様に他の署員たちに色々と話しかけられている、志穂ねえちゃんと呼ばれた緒方巡査は顔から蒸気を出しながら公には出せない表情になって固まっている。おそらく、おねえちゃん呼びがなにかの琴線をひきちぎり倒してフリーズしたのだろう。


 そこにやってくる副署長。


「こらこら、そんなに一気に話しかけたらルンちゃんも困るだろう。親睦を深めるのは後でもできる。そろそろルンちゃんを解放してあげなさい」


 なんだこの好々爺は。いつもは鬼の副署長と陰で言われている人の言葉とは思えない!


 オレと同じ感想を皆も抱いたのか、それぞれおののくような表情をしながら電話交換室を後にしていく。


 そこに残されたのは、電話交換のおばちゃんとオレに緒方巡査、そして副署長だ。


「まったく、みんなして仕事をほっぽってけしからんことだ。あ、ルンちゃん、これは丸舘市名物のお菓子でね……」


 おまえもか、副署長。








「このお菓子とか、どうします?」


「なんか大きい袋でも見つけて持って帰るしかないだろう」


 結局大きな袋は見つからず、署のボイラー室にあった丸舘市の指定ゴミ袋にそれらを入れて持ち帰る羽目に。


 ちがうんだ! みんなの好意をゴミに捨てるわけじゃないんだー! と叫びながらオレと緒方巡査は菓子類等をゴミ袋に詰め、軽トラの荷台に積みこむのだった……。

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