第28話 丸舘警察署幹部会議②

「異世界人がわが署管内に出現した可能性がある。」


 その言葉を聞いて、俺は危うく狂喜乱舞するところだった。ふう、危なかったぜ。


 だが、俺の浮かれた心とは裏腹に、署長はじめ幹部連中は浮かない顔だ。


「はあ、わしは今年で定年だというのに、どうして最後の最後にこんな厄介ごとが……」


 署長のボヤキが聞こえてくる。他の連中も、理由こそ違えども概ね同じような心情なのだろう。


 自分で思わずボヤいたことに気付いた署長が咳ばらいをして、幹部連中に問いかける。


「ということで、異世界人がわが署の管内に現れるかもしれん。もし現れた場合、その扱いは通達文書にあるとおり、なるべく刺激せずに自由意志に任せるようにとあるが、いまいち具体性に乏しい。なにか、有用な意見のあるものはいないか?」


 そんなことを聞かれても、誰もこのようなことは経験したことはないのだ。皆一様に自信なさげな顔をして目を伏せる。


 だが、俺は一人堂々と挙手をする!


恩田君刑事課長、何かいい意見があるのかね?」


「署長! まずは、異世界人というのはどのようなものなのか、イメージを持っておくことが肝要と思われます。つきましては、本職は参考になりそうな動画を所持しておりますので、この場で再生してもよろしいでしょうか?」


 許可をもらった俺は、スマホを会議用の大画面テレビにつなぎ、『異世界魔法少女アマエミちゃん』のアニメをワンクール1話目から流し始めた……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「これは! 異世界人というのはなんとかわいらしく、儚げなのだろう。これは、我が署で全力を持って保護しなければならん!」


 現在配信が終わっている10話目まで見終わったところで署長をはじめ、幹部のおっさん連中の目が、かわいい孫娘を見るかのようにキラキラしている。

 

 あれ? 見せる資料アニメを間違えたかな?


 というか、異世界人が魔法少女だと決まったわけではないですよ? おっさんだったらどうするんだ?


「どうする? 我が署で保護する以上、いっそ女性警察官の立場を与えては? そうすれば、一緒にパトカーに乗って、アメ玉あげて、「おじちゃん! ありがとう!」なんて言われたりとか……おっと、ゲフンゲフン」


「おお、それはいい案だ。だが、警察官にするとすれば、県警本部長キャリア組の出向とかの決済が必要だぞ? 今の本部長、若いくせに頭が固くて有名だからな」


「だったら、現場の署長権限で委嘱可能な交通指導隊員はどうだ? それなら、警察施設に居ても、一緒に行動しても不自然じゃないぞ?」


「「「「「天才か!!」」」」」




 こうして、未だ発見すらされていない異世界人の処遇の基本方針が魔法少女限定Vrで定まったのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る