第27話 丸舘警察署幹部会議①

 その日の夜、晴田県警丸舘警察署の署長室には、招集をかけられた署の幹部警部以上たちが勢ぞろいしていた。


「みんな、この緊急通達に目を通してくれ」


 各員に配られた、マル秘の印のつけられた文章。



 そこには、数時間前に発生した世界各国での地下迷宮の発生に伴う、


 『管内で地下迷宮が発生した際の取り扱い要領(仮)』


 といったタイトルの書類が1枚目につづられていた。


 

 とはいっても、その内容は、


『地下迷宮発生の通報を受けた際には、速やかな現場確認と地域住民の安全確保と共に、情報を県庁及び各市町村、各官庁に共有させ自衛隊各地方駐屯地の指示を仰ぐこと』

 

 これだけである。



 その日の勤務が終わって自宅に帰り、さあこれから趣味の異世界転生ものアニメを見ようとしたところに招集をかけられた丸舘署の刑事課長、恩田勲おんだいさお警部は、いささか拍子抜けな1枚目の内容を横目で流し、2枚目に目を通すべくページをめくる。


 そこには、


 『昨夜を境に行方不明になった者がいないかの管内一斉調査』


 を行うべしとの県警本部からの通達と、


 『行方不明者が発覚した場合、それと対となる異世界人の捜索』


 といった文言が目についた。




「異世界人だとぉー!」


 やばい、思わず叫んでしまった。


 署長や副所長が怪訝な顔でこっちみてるじゃねえかよ! 


 で、叫んだ気まずさから咳払いをしてその先の文章に目を通すと、そこには現場からのたたき上げでろくな頭もない俺のようなやつにも分かり易いような文章で、今回の地下迷宮騒ぎ関連のことが書かれていた。


 その内容は、世界各地で地下迷宮が発生したのは、どうやら地球が一瞬異世界とつながってしまったために起きたであろうこと。

 

 そして、そのために向こうの世界に飛ばされた地球の人間もいるかもしれないこと。



 なるほど、だから昨夜限定の行方不明者の有無の確認なわけか。


 で、その続きだ。


 学者の見解では、異世界間の人や物の移動は、『等価交換』である可能性が高く、もし、行方不明者(異世界へ飛ばされた者)がいた場合、それと対になる異世界からの来訪者が現れる可能性が非常に高いということが記されている。


 なるほど、つまり、もし、管内で昨夜のうちに行方不明者の発生があった場合、この丸舘市に異世界人が現れるかもしれないという事だな。


 異世界人がご近所に! 再び叫びそうになるが、どうにかこらえる。 

 

 異世界人には会ってみたい! 今ちょうど配信されている「異世界魔法少女アマエミちゃん」の主人公のように可愛くて、少しおっちょこちょいな、『こんな孫娘が欲しい!』ランキングの堂々一位に輝いている雨海エミリちゃんのような異世界人にぜひお会いしたい!


 だが、それはかなわぬ夢だろう。なんてったって、ここはド田舎だ。

人口比率の問題やら、俺の運勢やら人徳やら様々な要素を鑑みても、こんなところに異世界人が現れる確率などほとんどあり得ない。

 まして、その異世界人がうら若き魔法少女であるという保証などないのだ。


 そんな益体もないことを思っていると、署長から驚きの一言が発せられた。


「実は数時間前、地下迷宮発生と同時刻、我が署管内の県道で、突然走行中の軽トラが姿を消した瞬間が目撃された。目撃者のドライブレコーダーに動画も残っている。つまり、くだんの行方不明者がわが管内で発生した可能性が高い」


 ……! と、いうことは……


「異世界人がわが署管内に出現した可能性がある」





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