第26話 知られざる異常事態③

「知的生命体である場合、その個体と意思疎通が図れる場合においては、その自由意志及び行動に可能な限り制限を加えないこと。外見が人型であればよいが、例えば地球において異形となる場合においては、地球人の混乱を抑止するための最小限の行動制限にとどめること。」


 この見解を即座に示したフィーアシュタイン博士は、後日この見解に至った経緯をこう話す。


「次元、時空間を通り抜けてきた存在は、それ自体に何らかのエネルギーが宿っている可能性が高い。その対象に、たとえば人体実験や社会的観察等で多大なストレスを与え続ければ、不安定な精神がそのエネルギーに干渉してしまい、最悪の場合次元ごと、つまりは地球や銀河系が消滅する危険性もあるため、その存在の自由意志と行動の自由は可能な限り制限しないことが望ましい。」


「また、異次元の存在が目の前に現れることによって地上の人間、つまり現代社会がパニックになる可能性もあるが、地球が消滅することに比べれば些末なこと。

 そもそも、次元、世界はすでに一度繋がってしまったのだ。さらに繋がっていく可能性も限りなく高い。ならば、今のうちから異次元の存在に慣れていった方が今後の地球人のためにも有益ではないか。」


 といった内容である。




 また、今回の『時空震』事象の原因等について見解を聞かれると、


「わたしは人知を超える存在ではないので、そこまでのことは理解も出来ないし、推測もできない。ただ、一つ言えることは、先ほど述べた人知を超える存在――。

 こういった存在があるのであれば、その者の意志、作為、または不作為、偶発的な事案等、何らかの形でかかわっているかもしれないがね。」


 といった返答を返し、これらのやり取りに関する議論はしばらく有識者たちの間で留まる事を知らなかった。

 

 なお、これらの見解や議論等は、一般科学誌等や報道に載せて世界中に情報開示するべきといった意見も出されたが、ダンジョン発生で世の中が浮足立っている今ではないとする意見が多数を占め、事の本質――というか、


 『今現在最も信ぴょう性の高いと思われる推論』


 のことは、世界各国の首脳たちの合意のもと、ダンジョンの発生から数年を経てもいまだ一般に開示されるには至っていない。




 なお、これら『時空震』にまつわる一連の事態に関し、世界中の、先進国、発展途上国、西側、東側、資本主義、社会主義など思想やイデオロギーの違う各国が足並みをそろえたという事実があり、これを持って人文学や社会学者、戦争学者などは


『異次元からの干渉を端緒とする世界全体融和の始まり』


 ではないかといった見解も出ていることを付け加えておこう。

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