第25話 知られざる異常事態②

 ――異世界とのゲートが開いた。


 徹頭徹尾、この主張を掲げて『時空震』に関わる議論にとりあえずの終止符を打った立役者は、量子力学研究の世界の第一人者、フレデリック・フィーアシュタイン博士であった。


 フィーアシュタイン博士は、この主張と共に、すぐに二つの仮説を打ち出した。


 一つは、

 

「地球上にこれまで確認されたことのないような未知の天変地異が発生する」

 

 というものであり、この仮説は世界中に突如発生した無数の地下迷宮ダンジョンの存在が明らかになる事で実証された。 


 そして、もう一つの仮説は、


「人的、または物的、もしくは性質的のいずれか、またはすべてにおいて、位相の異なる世界の存在及び概念が流入かつ流出した可能性が非常に高い」


 というもの。


 また、これに合わせて


「今回の事象は、これ1回で完結するものではなく、今後も同規模あるいは規模を拡大または縮小しての同様の事案が発生するのはほぼ確実である」


 といった見解までもが出された。



 なお、今回のこの主張に於いて、世界的な「量子力学学者」であったはずのフィーアシュタイン博士は、後世の学者たちからは「オカルト学者」「預言者博士」などと言った、本人にとって名誉なのか不名誉なのかわからない肩書を付けられることにもつながったのは余談の域にある。




 世界各国の指導者及び政治中枢部はフィーアシュタイン博士の仮説を受け、発生したであろう地下迷宮の捜索、把握の調査を迅速に行う。

 

 それに合わせて、『時空震』の前後で突如行方不明になった者、およびこれまで存在しなかった人物や物品が現れるか、もしくは存在の質を異にしている何かがないかといった調査もあわせて指示を出したが、定義が曖昧なその指示は末端の公務員や調査員等には理解が追い付かず、具体的に実行できたのは、戸籍制度の整ってる先進諸国での『行方不明者の有無の確認』がせいぜいであった。


 だが、その指示を受けた各国の官僚からは


 『――もし、これまで存在しなかった人物や生物が現れたらいかようにすべきか指針をもらいたい。』


 といった質問状が、迅速に相次いで博士のもとに寄せられたのは、先進国各国の危機管理体制のシミュレーションが宇宙や異世界に関するものにまで手を広げていたことの証左だったのかもしれない。


 そして、民俗学、生態学、社会学にも詳しいフィーアシュタイン博士は、その質問状に即座に回答を示す。


「知的生命体である場合、その個体と意思疎通が図れる場合においては、その自由意志及び行動に可能な限り制限を加えないこと。外見が人型であればよいが、例えば地球において異形となる場合においては、地球人の混乱を抑止するための最小限の行動制限にとどめること。」


とされた。

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