第22話 軽トラ風呂

 ルンは、リフォームの終わった駐在所の中、自分の生活スペースとなる広さ3畳ほどの畳敷きの小上がりに足を踏み入れると、突然横になって思いっきり背伸びした。


「……! 武藤巡査長! 見てはダメです! 向こうを向いてください!」


 そう、交通指導隊の制服はスカートなのだ。そんな服装で無防備に横になって背伸びをしようものなら。おパンツが見えてしまうではないか。


 だが、当の本人であるルンはそんなことは気にしていない。

 じつは、さっきちらっと見えてしまったのだが、ルンのおパンツは日本の物ではなく、異世界の物。つまり、紐で腰の部分を縛って止めるかぼちゃパンツだったのだ。

 これでは、見た方も見られた方も恥ずかしくなどない。というか、こんなパンツをはいているという事は、異世界では下着を見られたくらいでは羞恥の対象などではないのだろう。


 そんな認識は、緒方巡査にも伝わったようで、


「ルンちゃん!? もと着ていた服は? ああ、軽トラの荷台の中ですね。今運びますからね! あ、武藤巡査長! ルンちゃんの衣類の確認が終わったら、この世界でのお洋服を買いに行きますので、軽トラ貸してくださいね!」


 そうか、そういえば、ルンの着ていた異世界の皮鎧とか、衣装ケースに入れられて荷台に積んだままだったんだな。すっかり忘れてそのまま市立病院まで行っちゃったな。まあ、幌があったから目立たずよかったが。

 それはそうとして、


「いや、軽トラにルンを乗せて行っても、どうせルンは降りられないんだから、緒方巡査が一人で行っても同じじゃないか? それに、オレは軽トラでちょいと試したいことがある」


「ぐぬぬ……わかりました! とりあえず、ルンちゃんのサイズ測りますんで、武藤巡査長は席を外してください!」


 そんなこと言われてもな……ここはオレの職場であり、家でもあるのだが。


 まあいい、のぞき趣味はオレにはない。


「はいはい、じゃあ、オレは車庫にいるから何かあったら声をかけてくれ。」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オレは車庫に来て、新品のブルーシートを棚から出した。


 ルンは、風呂というものに入ったことがないらしい。


 この駐在所では、残念ながら風呂場は軽トラから5メートルの範囲にはどうしても入らない。

 風呂場のある場所は、オレの家も、緒方巡査の方も、ブロック塀が1.5メートルくらいの間隔にあり、その隙間に軽トラを入れることは不可能であり、塀の外に置こうにもそこには公共の公民館やら、民間のデイサービスやらの敷地なのだ。

 そもそも、そこに停めても軽トラから降りて風呂場に行く動線が確保できない。

 


 ならば。


 軽トラの荷台にブルーシートを広げる。そして、給湯室の湯沸かし器にホースをつなぎ、荷台の中に注いでいく!


 これで、深さは浅いが一応風呂のような形にはなるはずだ。


 お湯が注がれる音を聞いて、緒方巡査が顔を出す。


「わあ、軽トラ風呂ですね!」


 緒方巡査も、オレの意図するところをすぐさま察してくれたらしい。


「ああ。ルンはこっちの世界のシャンプーとかわからないだろうから、緒方巡査、教えてやってくれ。オレは自室で待機しているから。」


「はいっ! わたしも一緒に入りますね!」


 いや、お前は入らんでもいいだろうに……

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