第21話 リフォーム完了
ルンの能力によって落とし物の100円玉を無事に持ち主に返したオレは、元居た世界や兄弟の事を思い出して涙を流したルンを慰めながら、上中岡駐在所に戻ってきた。
そこには、業者が入ってリフォーム中の駐在所に立ち合いで残らなければならなかった緒方巡査が不貞腐れたような顔で待っていた。
「武藤巡査長! わたしがいっつものけ者になるのはなんか嫌です! 軽トラの運転を変わってもらうか、せめて軽トラを3人乗りに改造してください!」
運転を変わるのはいいとして、改造なんて無茶なことをいうな。道交法違反だぞ?
まあ、荷台に乗ることは完全アウトではない場合もあるようだが、警察官の制服を着てそんなことをしていては悪目立ちが過ぎる。
そんなことを言いながら軽トラに近づいてきた彼女は、ルンの目が泣きはらしたそれであることに気が付いた。
「……! なにか、あったんですか?」
オレが泣かせたと思わないだけ彼女にはまだ救いがあるのか。
ルンの精神操作系の魔法の事には触れずに、家族を思い出して悲しくなったんだと説明すると、緒方巡査はおもむろに助手席のドアを開け、ひしっとルンを抱きしめた。
「大丈夫だからね。さみしいと思うけど、私をお姉ちゃんと思ってくれていいんだからね? 泣きたくなったら、一緒に泣こうね?」
さすが女性警察官の包容力だと感心した。じつは、さっきオレもルンの事をこうやって抱きしめようかとも頭をよぎったのだが、制服を着た男女二人が市立病院脇の公の路上で密着するのは人目が悪いと思い断念した。まあ、人目以外にもいろいろな問題もあるのだが。
そんな折、駐在所のリフォームをしていた業者さんが話しかけてくる。
「今日のところは終わりましたー。あとは、発注した部品が納品される一週間後くらいにまた連絡してから来ますねー」
さすがは警察出入りの業者さん、
ともかく、いつまでも外で抱き合って居させるわけにもいくまい。
オレはリフォームがひと段落したという駐在所の鍵を開けて中に入った。
どうやら、注文する部品とは、小上がりにかさ上げされたルンの居住部分を囲うパーティーションらしい。そこには、取ってつけたように代替のレールカーテンが取り付けられていた。
ほかには、給湯室との壁ぶち抜き&引き戸設置も終わっており、未だ仕切りがカーテンのみのため防音の事さえ除けば今すぐそこで生活できる環境が整えられていた。
「おーい、とりあえず中に入ろうぜ」
オレは軽トラを駐在所の車庫に入れ、ルンを降ろし、もとは執務室の応接セットがあった場所、畳3畳ほどの小上がりの畳の上に招き入れた。
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