第20話 ルンの魔法

 駐在所に届けられた100円玉。決して見つかるはずがないはずの、その持ち主をルンが探し当ててしまった。


「なあ、ルン。答えたくなかったら答えなくてもいいんだが――」


「あ、うん。銀貨の持ち主を探した方法だよね」


 ルンは、普通の表情――。 だが、若干影のあるような顔つきでいろいろ説明してくれた。


「わたしは、精神操作系の魔法が使えるんだ」

 

 ルンは魔法が使える。だが、100円の持ち主を探したのは、魔法そのものではないらしい。

 さっきの100円玉には、これをなくしたら困るというおばあちゃんの思いが乗っていた。その思いの強さがある程度強かったから、その『残留思念』のようなものを追跡することが出来たらしい。


 人の心を操作する性質の魔力を扱えるルンは、意識を集中すれば、心の動きとか、感情の揺れ、心の移り変わりの経緯などを『察する』ことが出来るらしい。ただし、いつもそれが出来るというわけではなく、条件に左右されることが多いようだ。


 『残留思念』は、物品であれば、その物に対する執着、執心のようなものが強ければ強いほどその足取りを追えるし、逆にそれが乏しければ全く手掛かりすらわからないこともあるそうだ。


 だが、それが『物』ではなく『人』になると、一気に話は難しくなる。


 人の、人に対する好悪感情。好の場合は執着、独占等、悪の場合は殺意、害意、隔意等。

 その思いが強ければ強いほど、それに干渉した時には反動を受けやすいらしい。なので、よっぽどの事でもなければ人間相手にその魔法を用いることはないらしい。


 では、いつどのタイミングでどのような魔法を使うのか。


 冒険者だったという彼女の出自からしてわかるように、その多くは魔物に対して行使された。


 魔物の敵対心を好感度に変える『魅了』、さらには好意と悪意をないまぜにさせる『混乱』。それらを発展させて、洗脳のように付き従わせる『従属』、そして、心の底からの信頼を育める『テイム』など、成功率はとても低いが、成功すれば絶大な効果をもたらすものもある。


 普段使用しているのは、効果時間を最小に絞った『忘却』などで、ほんの一瞬の間、戦闘行為中だという事を忘れさせて戦闘を優位に進めたり、『拡散』で敵の興味の範囲を広げさせ味方に対するターゲットを弱くしたり、また逆に『執着』で特定の味方にターゲットを集中させたりといったこともできるらしい。


 また、署長たちには生活魔法のことは伝えたが、こっちの精神系の魔法の事は一切伝えておらず、このことを打ち明けてくれたのは今のところオレだけのようだ。


 そんなことを語ってくれているルンの顔が悲しみにゆがむ。


「わたし、この魔法が使えるようになった時、みんなの役に立てるってとっても嬉しかった。でも、こんなことが出来るって知られた時には、周りのみんなは、まるで気味の悪い化け物でも見るような感じで……嫌われて……。変わらずに接してくれたのは、お兄ちゃんたち兄妹だけ。セヴル兄……ソヴル兄……。ランス姉……リンス姉……。会いたいよぉ……」


 オレは、涙を流すルンの頭を優しくなでる事しかできなかった。


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