第19話 落とし主を探せ

「晴兄ちゃん! その銀貨100円玉を落とした人を探すんだね? わたし、できるかもしれない!」

 

 え?


 この娘は何を言っているんだろう? 


「ちょっとその銀貨貸して? 読み取ってみるから!」


 読み取る? 何を読み取るというのだろう? 日本国百円とか、鋳造年号かな?

日本語の勉強? いや、軽トラの中ならば【共通言語翻訳】が働くはずだから、漢字も異世界の文字に見えるはずだ。


 とりあえず、言われるがままに100円玉をルンに手渡すと、ルンは100円玉を両手で握りしめ、額の前で祈るようなポーズをして目を閉じる。


 すると―


「見えた! 晴兄ちゃん! あの子供の前にこれを持っていた人、ええーと、お年寄り? で、なんかおっきい魔道具に乗って、走るより速いスピードで移動してる。で、多分、その人が行きたいところは、あっちの方の、おおきな四角い建物で、えーと、病気の人とかが沢山寝ている所みたい!」


 なんと。


 大きい魔道具とはバスの事だろうか。病気の人がいる四角い建物と言えば、この田舎では市立病院くらいの物だろう。

 で、そこに向かっている高齢者……。


 なんてことだ。この地球に来てまだ2日目のルンが、そこまで整合性の高い推論? を導き出すなんて。

 これは、信憑性が高いかもしれない。


 という事は、この100円玉はその高齢者が落としたバス運賃の一部なのかもしれない。たかが100円と言えど、年金生活者にとっては大金になるかもしれない。


「わかった。とりあえず、そこ市立病院に行ってみよう」


「うん! たぶん、困っていると思うの!」


 そうか、落とした人の心情まで推し量れるというのか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 軽トラに乗って市立病院に着くと、ちょうどバスがバス停に止まっていた。

 

 中の様子をうかがうと、なにやら高齢のおばあちゃんが料金払い箱? の前で戸惑っている様子。


 オレは軽トラから降り、バスに近づいてバスのドアから顔を出す。


「すみません、この中に、上中岡小学校のバス停前でお金を落とした人はいらっしゃいませんか?」


 突然の警察官の登場に運転手やおばあちゃんも戸惑っていたようだが、我に帰ったおばあちゃんが手を挙げる。


「わたしです。バス賃に寄せておいたお金から100円足りなくて……」


 おお、ビンゴだ。


「ああ、よかった。やさしい小学生がバス停に落ちていたと駐在所に届けてくれたんです。時間的に、病院に向かう人かなと思って後を追ってきたんですよ」


 まさか、異世界人の推測に基づいて追ってきましたとは言えない。


 おばあちゃんにとても感謝されながらも、あの小学生に5分5円から2割20円のお礼を渡してもらう手続きが必要なため、おばあちゃんの氏名住所電話番号を聴取したのちその場を後にする。

 これは、あの小学生にも正式な遺失物拾得届を書いて控えを渡さなければ。

 

 それにしても……ルンって、どんな能力を使ったんだ?


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