第18話 地域警察官

「おまわりさーん!おかね100円ひろったのー!」


 近所の小学生だろう。黄色い帽子をかぶっているという事は、ピカピカの一年生のはずだ。

 うん、この駐在所に配属になった直ぐの春に、地元小学校の入学式に来賓として招かれたときに見たから間違いない。


「おー、えらいねー。それじゃ、どこでひろったのかと、君のお名前を教えてもらおうかなー?」


 正直、100円玉の落とし主など見つかるはずがない。金額も些少だし、なにより現金というのは名前が書かれているわけではない(まれにお札に書いている不届き物もいるらしいが)。

 お札なら番号があるので可能性はあるが、それすらない硬貨の場合はまず不可能だ。


 なので、こういった場合は遺失物拾得届という正式な、かつ煩雑となる手続は踏まずに、ただお礼を言ってすます場合もある(この場合、100円は数か月後に募金箱に入ったりする)のだが、だからといって、せっかく『良い事』をした小学生の子供にそんなおざなりな大人の事情グレーゾーンを適用するわけにもいかない。


「はい、それじゃあ、これは君が拾ったお金をお巡りさんに届けてくれた証明書だ。おうちの方に見せて褒めてもらってね」


「はーい!」


 オレはこんな場合に備えて、子供用の「いいことカード」なるものをパソコンで自作していた。


 今回の場合、


  「いいことカード」

 

  『いつ』  →□年〇月△日▼時頃

  『どこで』 →小学校前バス停

  『なにを』 →100円玉を

  『どうした』→拾って届けた

  『なまえ』 →なんとかかんとか

             上中岡駐在所



 みたいにカードに書いて手渡している。

 六何の原則を簡易的に体感する事も出来て、教育にも役立つんじゃないかとひそかに思っているのは誰にも言ってない。だって、恥ずかしいじゃないか。

 

 もちろん、もし実際に落とし主が見つかったりとか、なにか事件の手がかりだった場合の可能性も100%ないとは言えないので、しっかりと子供の名前の控えは取っている。住所は、この年ごろだと言えない子も多いので、必要な時は学校に照会するか巡回連絡簿で確認する。


 他にも、もし、巡回連絡で家庭訪問したときにその子がいたりしようものなら、この件を話題の切り口にして子供を褒めまくるための話題の手掛かりにもなる。


 こういったところから、お巡りさんは地域住民に信頼されていくのだ。と思う。

 

「ありがとうねー。気をつけて帰るんだよー。」


「はーい! またねー、お巡りさん!」


 うん、純真な子供というのは可愛いものだな。

 そのうち、あの子もスマホが欲しいとか、ゲームに課金とか、SNSで大人たちの毒に汚されていくのだろうか。


 などと益体のないことを考えていると、助手席に座ったまま今の一連のやり取りを見ていたルンが、


「晴兄ちゃん! その銀貨100円玉を落とした人を探すんだね? わたし、できるかもしれない!」


 え?


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