第17話 魔法少女

 一緒に住むことになったルンの生活スペースの確保は、本署のお偉方さん方たちが手配してくれたリフォーム業者のおかげで何とかなりそうではあった。

 でも、これだとルンは風呂に入れない。


 そのへんどうなんだろうと本人に聞いてみると、


「お風呂? そんな贅沢なもの、あっち異世界では入ったことないよ?」


 との、まさかのお返事。


「じゃあ、狩りとか冒険とか行って汚れた時はどうしてたの?」


「え? どうしてたのって……普通に……生活魔法の『清潔クリーン』だけど?」


「魔法!?」


 そういえば、ルンはいかにも魔法使いの杖って感じの棒を持ってたもんな。そっか、魔法使えるんですね……ははは


「うん。晴臣お兄ちゃんは魔法使えないの?」


「ああ、オレは魔法は使えない。というか、こっちの人間は使える奴なんていないぞ?」


「へー、そうなんだ。あんなに魔道具自動車とかいっぱいあるのにね。不思議だね」


「……ああ、本当に不思議だな。ところで、魔法の話、本署のお偉いさんたちには言ったのか?」


「ホンショ? ああ、さっきの大きい四角い建物の事ね。うん、晴臣お兄ちゃんに聞かれたみたいに、お風呂の事聞かれたから、今みたいに普通に言ったよ?」


「……え? それで、あの人たち驚いたりとか、何か言ってなかった?」


「ううん。あ、『やっぱりな』みたいなことは言ってた気がするけど」


 なんだと……頭の硬そうなことで有名な警察幹部が、異世界からきた少女のみならず魔法の実在についても驚かないだと……。


 これは、絶対に何かあるな。国の上層部とかが、異世界や魔法の存在を許容するような何かがあったに違いない。

 それに関する事と言えば、やはりダンジョンの件とかなのだろうか……


 そんなことを話していると、いつの間にかいなくなっていた緒方巡査が私用車に乗って戻ってきた。さすがに駅前交番のパトカーは返却してきたみたいだな。


「私物持ってきましたー! わたしの官舎はどこですかー?」


 赤い軽ワゴン車に衣装ケースを6個くらい積んでいる。うち2つくらいは警察の制服関連の夏服とかだ。

 この年頃の女性にしては私物が少ないと思うが、警察官というのは突然の異動にも対応できるように、そもそも私物自体を少なく抑えている人が多い。

 まあ、そんな人でも家を建てると一気に趣味のやたらとかさばる物が増えるのが不思議なのだが。


 自分にあてがわれる官舎――オレの住居部分とは屋根続きで玄関は別――に荷物を入れた緒方巡査は、軽トラに乗ったオレたちの方に駆け寄ってきた。


「あれ? さっそくリフォーム入っているんですね。これじゃ、今日は仕事できそうにありませんねー」


 たしかに、ルンのこともあるが、これでは仕事にならない。


 そんなとき、学校帰りと思われる、黄色の帽子をかぶった小学生がとことことオレの方に歩いてきた。


「おまわりさーん!おかね100円ひろったのー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る