第14話 おにいちゃん

「そろそろ帰りましょ、晴臣!」


 おにいちゃん……だと……?


「聞きました?! 武藤巡査長! 『おにいちゃん』ですよ! 妹萌えですね!」


 緒方巡査の頭にチョップをくらわしたい衝動を必死で抑える。そんなところを市民に見られたら、警察官の暴行事件だとかパワハラだとかあげつらわれてしまうからな。


「えーと、なんでオレがルンシールさんのお兄ちゃんなのかな?」


「あっ! ごめんなさい。わたし、兄が二人いるんです。上の兄はセヴル兄って言って、2番目の兄がソヴル兄って言って……、えっと! なんか、晴臣さんって、その二人を足して2で割ったような感じがして! それで思わず……」


「そうだったのか。」


 思えばこの子はまだ若いのに、いきなり家族から切り離されて知らない土地、どころか知らない次元の知らない惑星に来てしまったんだ。その心細さは察するに余りある。


「えーと、やっぱり変ですよね。お兄ちゃんって呼ぶなんて。やっぱり、晴臣さんって呼んだ方がいいのかな?」


「いや、いいぞ」


「えっ?」


「だから、いいぞ。こっちの世界にいる間は、オレがルンのお兄ちゃんだ。実の兄よりは頼りないと思うが、家族と思ってなんでも言ってくれ。」


「は……はい! よろしくね! 晴お兄ちゃん!」


 そんなやり取りをして、ふと周りを見るとなにやら目を細めてこちらを見ているおじいちゃんたち署長とか副署長とかの視線が。


「武藤巡査長! くれぐれも、ルンちゃんをよろしく頼むぞ!」


「はいっ! 武藤晴臣巡査長、ルンシール・ブロンズさんの保護および日常生活の便宜を図る件、謹んで拝命いたします!」


 署長の言葉に対し、照れ隠しもあって、大仰に敬礼で返し、オレたちは軽トラに乗って本署を後にする。後からは緒方巡査がパトカーに乗ってついてくる。

 あれ? あのパトカーって駅前交番のだよな? そのまま上中岡駐在所に持ってくる気じゃないだろうな? パトカーの借りパクなんて聞いたことねえぞ?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「さて、問題は居住空間だな。」


 ルンは軽トラから5メートル以上離れられない。


 日中、助手席に座っている分には何とかなっているかもしれないが、軽トラから降りて背伸びをするのは可能でも、夜とかは横になって寝られる場所がなければ辛すぎる。


「となると、通常なら居住部の廊下が一番という事になるのか」



 車を止められるスペースから距離的に近い屋内というと、先ほどトイレに行っても大丈夫だったように、居住区部分のトイレ付近はどうにか5メートル範囲内だ。


 ただ、それでも問題がある。


 居住スペースのトイレの前は廊下。

 寝室となる各部屋はそのはじっこ数十センチ部分しか5メートルの範囲内に収まらない。


 このままではトイレ前の廊下で寝泊まりせざるを得ないのだ。

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