第11話 警察幹部

 結局、アキン・ドーのことは聞けないまま本署に到着した。


 本署の駐車場に入ると、署長警視以下、副所長警視刑事課長警部地域課長警部など署の幹部の方々が待ち構えていた。


 署長まで! 駐在所にいると署長なんて朝礼以外で見ることねえよ! なんでこんなに幹部連中勢ぞろいなんだよ!


 ちなみに、後ろをついてきたはずの緒方巡査のパトカーは、署に入ろうとしたところでウインカーを止めて署に入らず直進していきやがった。逃げたなあんにゃろう。


 地域係長警部補の誘導で、そのまま公用車の車庫の中に軽トラを入れる。なるほど、軽トラから離れられないルンシールさんは署内に入ることは不可能だからな。その辺の事情も全て把握した上で、せめて屋根のある車庫の中に入ってもらおうという事なのだろう。

 けっこう歓迎されているっぽいな。まあ、歓迎されているのはオレではなくて異世界から来た冒険者少女の方なのだろうが。


「武藤巡査長、お疲れ様だったな。そちらが異世界から来たと思われる女性かな?」


「はい! そのとおりであります!」


 署長からの問いかけに敬礼で返答する。


「では、これからいろいろと彼女に尋ねたいと思う。君は署内で休んでいたまえ。」


 幹部連中がルンシールさんの側に寄っていく。いつの間にか、車庫内には椅子や机、お茶やお茶菓子の準備まで万端だ。


 それにしても、署長や副所長、刑事課長など歴々の面々だが、皆一様に孫娘を見るおじいちゃんのような柔らかい表情をしている。不気味だと思ったのは内緒だ。


 で、署内で休んでいろと言われたという事は席をはずせという事だ。空気の読めるオレは署内の当直室で電話受付のおばちゃんが淹れたお茶をご馳走になりながら、雑談をして時間を過ごした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一向にお声のかからないまま時間が過ぎていき、無駄な時間を有効活用しようと考えたオレは、交通課にいる同期の机とパソコンを借りて、今回の報告書作りに取り掛かる。

 この同期は早坂真尋まひろといい、高卒で採用されたのでオレより4歳下だ。

 彼には少し年の離れた妹がいて、その妹は中学の剣道で全国大会優勝を果たした地元希望の星だ。真尋も剣道をやっており、高校時代はインターハイまで行ったらしいが、全国優勝などとは縁遠かったと聞いている。

 ちなみにこの真尋、合コンで知り合った看護師さんと熱愛中で近々結婚するのだとか。オレより年下のリア充め。まあ、いい奴ではあるので爆ぜろとは言わない。が、箪笥の角に小指はぶつけろ。今すぐに。


 そうこうしていたところ、地域係長よりお呼びがかかり、オレは車庫に舞い戻った。


 そこにいたのは―――


 交通指導隊の制服に身を包んだルンシールさんと、いつの間に来ていたのか、その隣で目を輝かせる緒方巡査だった。



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