第10話 報告、任意同行

「軽トラから、何メートルまで離れられるのかの検証も必要だな」


 検証の結果、軽トラを中心におよそ5メートルの範囲ならば問題がないことが分かった。その範囲を超えると、途端に苦しみだすルンシールさんには悪いことをしたが、これで突然死という不測の事態は避けられるだろう。

 

 他にも、本当に生命維持装置が軽トラなのか、転移してきた場所そのものではないのかといった検証も行い、やはりルンシールさんの生存可能範囲は転移してきた場所ではなく軽トラの周囲だという事が明らかになった。


 で、色々なことが分かったのはいいが、問題なのは今後どうするかである。


「とりあえず、ことの次第を報告してくる」


 オレは駐在所の中に戻り、警電警察内部電話回線で刑事課長に事のあらましを報告する。無線で報告しないのは、無線は署内全ての警察官が聞いているかもしれないし、部外者による盗聴の可能性も否定できない。

 

 しかも、報告の内容は『異世界からきた少女』なのだ。

 

 もしマスコミあたりに聞きつけられたらこの駐在所の周りはテレビカメラと取材陣のパンデミックだ。 


 報告をするにあたり、「ふざけた報告をするな!!」などと怒鳴られる覚悟もしていたが、報告はことのほかすんなりと受け入れられた。妙に優しい刑事課長が不気味でしょうがない。


 で、報告の結果、どうなったかというと……


「軽トラから離れられないというなら仕方がない。そのルンシールさんを軽トラに乗せて本署まで任意同行されたし」


 とのことだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 軽トラの助手席にルンシールさん、運転席にはオレ。車体の構造上これ以上は乗れないので車内は二人っきりだ。緒方巡査はパトカーで後続している。


 何か会話をしなければと思い、先ほどから気になっていたことを尋ねてみる。


「えっと、さっきこの軽トラの事を『魔道具』と言ってましたけど、向こうの世界にもこんな感じのモノがあるんですか?」


「あっ、はい。えっと、わたしも直接見たことはないんですけど、かのアキン・ドーが円盤タイヤが3つ付いた、人が乗れて魔物の死体も積める魔道具に常に乗っていたという伝承があって……、で、これは円盤タイヤが4つだけど、人が乗れるから同じようなものなのかなって。それにしても、こっちの世界ではみんな魔道具に乗ってるんですねー。すごいですー。」


 さっきから行きかう車をじっと見ていたのはそういうわけか。それにしても、会話の中に出てくるアキン・ドーなる人物の事も気になる。

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