第3話 職務質問

「誰だ!」


 オレの軽トラの助手席には、見たこともない恰好をした少女が眠っていた。


 これはオレの私用車であり、ここは駐在所という警察施設の敷地内。これだけで、まごうことなく不法侵入となるのだろうが、だからといって、はいすぐ逮捕というのでは警察と住民の信頼関係など成り立つはずもない。

 まずは事情というものを聴取するところから始めなければなるまい。


 まずは、外見からの観察だ。


 対象者は眠っている。

 

 そして服装だが、先ほどオレはこの少女の服装を見たこともない恰好と形容したが、よく見ればどこかで見たことのある格好だ。

 だが、それはマンガやアニメの中で見たことがあるという意味で、現実にこのような格好をして歩いている人間はこの世では秋葉原かコミケ会場くらいだろう。

 つまり、RPGに出てくるような冒険者のような皮鎧と麻の服に編み上げの革靴、魔法の杖のような棒を持っているのだ。


 そして顔立ちだが、あどけなくかわいらしい顔立ち。なのだが、そのところどころは泥で汚れ、擦り傷のようなものにはうっすらと乾いた血液のかたまりも見られる。

 そして、どう見てもその造形は日本人のものではない。かといって欧米人のそれとも異なり、しいて言えばこれまたアニメや漫画等に出てくるような印象を受ける。眠っていてよくはわからないが、開いた目はぱっちりと大きいのだろう。

 耳は……とがってない。よかった、エルフではないようだ……って、違うわ!


 目の前にいる少女は現実に存在するのだ。けっしてアニメや漫画の中から飛び出してきたわけではない。

 

 オレは気を確かに持ち、観察の次の段階に移行する。職務質問だ。


「もしもし! 起きてください! 意識はありますか!?」


 声をかけるが少女は目を覚まさない。しかたない、肩の肌が露出している服装なのでためらわれたが、肩をつかんで体を揺らす。


「もしもし! 起きてください! なぜここにいるのですか!?」


 肩をゆすりながら声をかけると、少女は「うっ、うーん」と身じろぎして目覚め始めたようだ。


 オレは一歩下がって距離を取り、突然の攻撃に備え警棒に手を添える。

 いくら見た目がかわいらしい少女だからと言って、相手の素性が知れるまでは警戒を怠ってはいけない。虫も殺さぬ顔をしている凶悪犯などこの世にごまんといる。善と悪には年齢も性別も見た目の美醜も関係ないのだ。


「おはよ~。あれ? あなたはだあれ? お兄ちゃんたちはどこですか?」


「?」


「って、ここはどこですか……っ! え? わたし、なんでこんな魔道具軽トラに乗ってるの? ねえ、わたしなんでこんなところにいるの? ねえ! 教えて! そこのあなた!」


 いや、職務質問してるのはこっちの方なんだが……

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