第2話 侵入者

「さて、本署に顔を出さないとな。めんどくさ。」


 顔を洗い、簡単な朝食を摂って制服に着替える。

 駐在所に住んでるので、何かあった時即応できるように寝るとき以外はほとんど制服だ。

 

 こんな生活のおかげで、オレはほとんど私服というものを持っていない。なにか作業をするときだって、警察学校で支給された作業服(学校時代は『校内服』と呼んでいた)だし、寝るときに至っても警察学校のジャージである。

 まあ、別にデートとかする相手もいないし、こじゃれた場所に出かけようにも、そもそも田舎なのでそんな場所もないので、そんなに不自由はしていない。


 ワイシャツにネクタイを締め、上着の合服を身にまとう。

 

 さあ、ここからは私人の晴臣ではなく、警察官の武藤巡査長だ。

 

 制服のチカラというのはすごいもので、こんなだらけたやる気のないオレでも背筋がシャキッと伸びたような気持になる。


 帯革を閉め、手錠、警棒の位置を調整し、署内系無線機を取り付ける。拳銃を拳銃庫から取り出し、これもしっかりと取り付ける。

 無線機と拳銃を装備すると腰回りが一気に窮屈になる。最初はこの状態で車を運転するのにとても邪魔で、座面に押し付けられたような形になる拳銃が暴発しないか怖かったものだが、慣れとは恐ろしいものですっかり体の一部となっているそれらを再度確認し、本署に提出する書類を持ち、不在の看板を掲げて駐在所を出る。もちろん、施錠も絶対だ。


 本来なら、このあとは駐在所の脇にある車庫のシャッターを開けてミニパトに乗り込むところだが、最近は違っていた。


 駐在所のパトカーが故障して修理中であり、もっぱら業務中の移動も私用車の軽トラを使っていた。本来は推奨されたものではないのだが致し方ない。


 そもそも、ここ駐在所のパトカーは古すぎた。よく見れば錆も浮いていたし、ここ最近は3回に2回はエンジンがかかりにくくなっていて、先日とうとうウンともスンとも言わなくなった。バッテリー交換で済むかと思いきや、セルモーターやら制御系やらいろいろイカれていたらしく、めでたく修理工場入りとなってしまった。

 警察官がパトカーを使えないなど、どっかの三文小説では笑いものになりかねない事態なのだが、田舎の警察署ではままある事態である。

 新車に更新するにも予算というものがあり、こんな田舎の駐在所のパトカーの更新にそれほど重要度があるわけでもなく。 

 ちなみに、つい先日交通課のパトカーが速度違反車にぶっちぎられたらしく、最新の高速走行可能なパトカーへの更新が本署の急務となっているらしい。



 

 ともかく、県警や本署の事情はどうあれ、オレは現状この軽トラで業務に当たるしかないのである。


 ため息交じりに軽トラの鍵をあけ、運転席のドアを開けると――――


「誰だ!」


 そこには、見知らぬ異邦の身形をした、年若き少女が助手席に座って眠っていた。


 

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