駐在さんの軽トラに異世界の女の子が乗っていたので、そのまま保護して巡回します。
桐嶋紀
第1話 上中岡駐在所
「ふあ~、朝か。今日も平和だな」
ここは自宅であり職場。
職場の名前は、晴田県警丸舘警察署地域課、上中岡駐在所。
つまり、オレは警察官なのだ。
武藤晴臣巡査長。27歳独身。
県外の大学を卒業して晴田県警採用試験を受け無事合格。
警察学校、現場実習を経て、地方管区機動隊の3年間の務めを果たしたのち、この派出所に配属となった。
毎日が緊張と疲労の機動隊勤務と違い、ここの派出所はとても平和なものだ。なぜなら、とっても田舎だから。
本来、このような田舎の駐在所というのは、出世コースから外れた中年以降の妻帯者が派遣されることが多い。
妻帯者が多いのは、警察官本人が業務で駐在所を留守にしているとき、かんたんな電話応対や道案内などは奥さんの仕事になるからだ。そのための「奥様手当」というのも存在している。
そんな駐在所に、まだ若手で独身のオレが配属させられた理由は――わからない。
オレの警察学校の同期たちは、刑事課や交通課などの「専科」と言われる部署に配属になって、昇進コースに乗っているような者もいるし、白バイ隊員になりたいという夢をかなえて交通機動隊に配属になっている者もいる。
どんな組織であれ、若者の多くは上を、昇進を、キャリアアップを目指すものなのだろう。
だが、オレは別に出世に興味はない。偉くなったところで責任も仕事量も増えるのだろうと考えれば考えるほど、なんでそんな困難にみんな競って向かっていくのかが本気でわからないのだ。
給料だって、そりゃ多ければ多いほどいいだろうが、生活できる分もらってさえいれば十分じゃないか。
そんなオレに対する上司や先輩、同僚からの評価は「おもしろみのない人間」「向上心が見受けられない」「若者らしくない」といった感じである。
まあ、自分でも納得できる評価だとは思っているので、特段腹も立たない。特に、「若者らしくない」というのはオレ自身、もろ手を挙げて賛成だ。
だって、オレの私用車は「軽トラ」なのだから。
高校、大学の友人や、警察学校の同期達は高級車とは言わないが、その多くは女性受けのするようなスマートな車だとか、家族ができて広く使えるワンボックスワゴンだとか、とにかくそれなりの車を持っている。
だが、オレは
そんなに高くないし、きびきび走るし、駐車スペースもとらない。
そもそも車なんて移動と運搬の手段なんだから動けばいいじゃないか。
そんなオレだから、若い身空で駐在所に配属になったのかもしれないと、最近漠然と思い始めた。
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