第17話 愛美ちゃんを救え!
職員達は「なぁ~んだ。」と言う顔で戻って来た。肇は男から見えないところで
職員を止めて「女性職員に頼んで トイレの中の娘に声をかけてみて欲しい。」と、頼んだ。頼まれた女性職員がやって来たので肇は
「トイレの中に二年生くらいの女の子が入って行くのを見たので、大丈夫?お父さんが待っているよと、声をかけて欲しいんです。」と言った。
「何かあるんですか?」と女性は聞いたが
「まだ、分かりません。とにかく、聞いてみて下さい。考えすぎなら良いのですが…」と肇は言った。
「分かりました。声をかけてみます。」しっかりとした女性のようで頼もしい。
女性職員は「こんにちわ。」と男に挨拶をして横を通り過ぎ 女性用のトイレに向かって行った。
使用中になっているドアの前に立ち、ノックをした。コンコンと中からノックが返って来た。女性は隣の個室に入り、水を流して中から隣へ声をかけた。
「大丈夫?外でお父さんが待ってるよ、」と、すると、女の子の声で
「お父さんじゃない!」と返事が返ってきた。
「違うの?」
「追いかけて来るから ここに逃げて来た。」
「そう、わかったわ。もう少しそこに居てね。」
女性はそう言うと 何食わぬ顔で手を洗ってトイレを出て、先ほどと同じ様に男に会釈をして横を通り過ぎて戻って来た。
「お父さんじゃないそうです。追いかけられたと言っています。」
男性職員とガードマンと女性職員と肇はどうする?と言った表情でお互いの顔を見た
「警察を呼びましょうか?」と女性が言うと、
「何か大袈裟じゃないか?」と男性は言った。ガードマンは
「とにかく、あの人にトイレの前から離れてもらいましょう。」
「うん、」肇も含めて4人が声をそろえた。
「私に任せて下さい。」女性が自信あり気に言った。
「大丈夫か?」男性が言うとガードマンが
「何かあったら大声を出してください。すぐに行きますから。」と行った。
「はい、じゃあ行って来ます。」女性はトイレに向かって歩いて行った。そして、通路に立っている男に声をかけた。
「お父さん、大変ですね。」
「えっ?」
「いえ、他の職員に 娘さんがトイレから出てくるのを待っていらしゃるんだと聞いたものですから、」
「はあ……」
「喧嘩でもされたんですか? 先ほど私がトイレ行った時に隣から泣き声が聞こえたものですから… ちょっと拗らせちゃいましたか? 恐らくずっとここで待っていられたら 娘さん、トイレから出てこられないんじゃないかと思うんです。 それに、
ここにずっと立っていらっしゃると 他の方がまた不審に思われると思うんですよ。
私が責任もって娘さんをご自宅にお送りいたしますから、先にお帰りになっていただけませんか?」
「…………」 男は怪訝な顔をして女性を見た。
「いや、そこまでしてもらっては申し訳ない、」
「大丈夫ですよ。私、お節介なんで……」
「…………じゃあ、帰ります。 娘は一人で帰れますから、ほっておいて下さい。」
「まあ、そんなに遠慮されなくても、」
「本当に大丈夫なんで……」
男はトイレの前で待つことを諦めて 図書館を出ていった。
女性職員はトイレの中の愛美に もう安心だから出てくるようにと声をかけ、愛美は
トイレから出て来た。二人でトイレの前の通路を通って 肇が待っている所まで来ると肇を見つけ、
「はじめちゃーん、」と言って、駆け寄って抱き着いた。顔見知りの肇を見て緊張の
糸が切れたように泣き始めた。
「知り合いなんですか?」と女性が聞いた。
「はい、偶然トイレの方向に行くところを見かけて… その後を見知らぬ男が付けている様に見えたものですから、どうもトイレの前で愛美ちゃんが出てくるのを待っている様に思えたので… いろいろお願いしてすみませんでした。」
「いえ、それはいいんですけど、あの人お父さんじゃないの?」
「違う!私のお父さんは死んじゃったの。あの人はお父さんじゃない!」
「あの人は知ってる人なの?」そう聞かれて愛美は頷いた。肇は愛美の手を取って
「愛美ちゃんは僕が連れて帰りますから、どうもありがとうございました。」
「あの人、まだ図書館の前で愛美ちゃんが出てくるのを待っていると思いますよ。
裏の搬入口から出て下さい。」
「あっ、そうですね、ありがとうございます。ちょっと本を片付けてきますから、
その間待っててください。」
肇は本を元の所に戻すと、愛美と二人、搬入口に案内され礼を言って図書館を出た。
表側の大きな道路は避けて、細い裏道を通った。実は肇はまだこの辺りの道には詳しくなくて、愛美が案内して寮の裏手に着いた。意外にも大通りを歩くより近道だったようで随分早く着いたのだ。
「へえ、早く着いたねえ。近道なんだね。」
「うん、」
愛美はやっと少しだけ笑顔になった。それまでは強張った表情で緊張して肇より半歩先を必死に歩いていた。肇はさっきの男が誰なのか聞きたかったのだが、とても聞ける雰囲気ではなかった。寮に着いて安心したのだろう 肇に声をかけた。
「はじめちゃんがあそこにいてくれて良かったぁ。ありがとう、でもなんで図書館に
いたの?」愛美の方が先に質問してきた。
「勉強していたんだよ。」
「勉強? 大人も勉強するの?」
「そりゃあ、知りたいことがあれば勉強もするよ。」
「ふ~ん、はじめちゃん、偉いね。」
「別に偉かないよ。ところであの男とどういう知り合いなの?」
「知らない…」
「え――っ 教えてくれないの?」
愛美は裏口を開けて中に入ろうとしたが、鍵がかかっていて開かなかった。
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