第15話 ドラキュラでの仕事

  ドラキュラを開ける時刻が近づいていた。拓郎と肇は、綺麗に化粧して綺麗な

ドレスを着て 女装した姿をお互いが見て驚いている。

「拓郎さん、可愛いですね。似合ってますよ、」と肇が言うと

「肇もきれいだなあ、惚れちゃいそう… でもチョットごっついかなあ、俺より

でかいし、」と拓郎 お互い照れながら笑っている。

「あらー、拓郎ちゃんも肇ちゃんもイケてるじゃない、でも言葉使いはもう少し可愛くね、」顔に絆創膏を貼ったマリリンが現れた。

「マリリンさん、今日店に出られるんですか?」

「オーナーから許可が出たからね、絆創膏もチャームポイントになってるでしょ。」

絆創膏に隠れていない部分にも青あざがあって、まるで喧嘩でもした後のようだ。

しかし、マリリンはショーの主役なので彼女がいないと今日のショーは成り立たない

オーナーも苦渋の選択だったのだろう。

「あら、拓郎も肇もいい感じに仕上がったわね。」オーナーが現れた。

「ねえ、ふたりでマリリンのバックダンサーをやりなさいよ。」

「え――っ、無理ですよ……ダンスなんて出来ませんよ。」拓郎が言うと、肇もうなづいた。

「大丈夫よう、簡単な振り付けを繰り返すだけで良いから、乗りよくやれば大丈夫」

肇と拓郎は顔を見合わせて困惑した。しかし、やれと言われればやるしかない。

幼稚園児でも出来るような 簡単な振り付けを4パターン覚えて、後はそれを繰り返すだけ、拓郎も肇も結構乗って来て楽しくなって来た。

「ショーは8時からだからね。」 「はい、」

ノアの方舟とドラキュラは同じオーナーの経営とは言え、店の雰囲気は全然違う。

ノアは落ち着いてしっとりとした高級路線なのに対して、ドラキュラはショーもあって賑やかなのだ。客も騒ぎたくてやって来る。ただ、下品な感じはない、そこはオーナーの拘りだ。

「ハーイ、ティファニーちゃん、元気?」と気楽な感じで客が入って来た。

「あら、真知子さん、いらっしゃい。今夜も綺麗ね。」

会話の感じもノアとはだいぶ違う。

「あれーっ、今日は見慣れない人がいるわね。誰?」

「ノアからのヘルプよ、昨夜マイクロバスが追突されて、3人も鞭打ちになっちゃたのよ。でも、あの3人よりかわいいでしょ。」

「本当だあ、ねえ、私のテーブルに付けてよ。」

「あら、私はいらないの?」

「ティファニーちゃんも一緒にいいわよ。」

「もうー、真知子さん辛辣!おまけみたいに言ってぇー! まあいいわ、そりゃあ若い子の方がいいわよね。でも、あの二人、八時からのショーに出るから席を空けるわよ。」

「まあ、ショーに出るの?楽しみー、」

「バックダンサーだけどね、今二人を連れて来るから待っててね。」

真知子とティファニーがそんな話をしている間にも、客は次々に入店して来て 店は活気を帯びて来ていた。

「初めましてソフィアです。」 「キャシーです。よろしくお願いします。」

「フフフ…いいわね、初々しくて可愛い。私、真知子って言うの、よろしくね。二人ともゲイじゃないんでしょ?」

「あっ……すみません、」

「しょうがないわよね、ノアからのヘルプじゃあ。」

その頃、そのノアに櫻子が来店して来た。

「ねえ、肇君の姿が見えないけど どうしたの?」 店のドアの前に立ったまま櫻子

が店内を眺めて 支配人に聞いた。

「トイレにでも行ってるの?」

「いえ、今日はチョット事情があって、ドラキュラの方に行っているんです。」

「えっ?ドラキュラに?……もしかしてドラキュラで女装して仕事をしているの?」

「はい……」

「そう……ごめん、今日はドラキュラに行く!私、今日は肇君を指名しようと思っていたのよ。じゃあね、」

「あっ、櫻子さん!」

櫻子は身を翻してドラキュラに向かった。

ドラキュラはノアから歩いて5~6分の所にある。いつもオーナーは二軒の店を歩いて行き来して店の様子を見ているのだ。

櫻子がドラキュラに到着すると すでにショーが始まっていてマリリンがステージに立って歌っていた。その脇で拓郎と肇がドレスを揺らしながら軽いステップを踏んでいた。

拓郎は細い足を活かして少し短めのフワフワしたスカートのピンクのドレスを着て、肇はごっつい足を隠すようにロングのスレンダーな青いドレスを着て、マリリンはモンローで有名な真っ白いドレスを着ている。ステージはとても華やかだ。

初めて見るドラキュラのステージに櫻子は魅了されていた。

そこへオーナーが近づいてきて声をかけた。

「櫻子さん、いらっしゃいませ。ドラキュラは初めてですよね。」

「肇君が今日はこちらだと聞いて来たのよ。女装姿が見たくて…やっぱり可愛いわね

随分馴染んでいるじゃない…」

「でしょ、あの子自分じゃ気付いていないみたいだけど、めちゃめちゃホストに向いているのよ。」

「そうねえ、でも素人っぽさが良いとも言えるわ。」

「あら、鋭い、さすが櫻子さん、でも取りあえず席に着きませんか?さっきから

ずっと立っていらっしゃる。」

「あっ、ごめんなさい…… ショーが終わったら肇君を呼んでくれる?」

「ごめんなさい。先程から指名がかかっているので、その後でもよろしいかしら?

櫻子さんの為なら無理したいんですけど、そうも行かなくて……」

「いいわよ、でも出来るだけ早めにお願いね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る