第2話 嫌われてしまった
「豊ちゃん、連れて来たわよ。どう?やっぱりイケメンだったでしょ、私のセンサーはやっぱ凄いわ。」
オーナーは車に乗り込むなり、運転席にいる男に興奮気味に話した。
「ほう、なかなかですね。君、いくつ?」
「26歳です。」 それを聞いたオーナーは
「あら、いい年ごろ…… それにしても可愛いわ、食べちゃいたいくらい…」
「ええーっ?」
肇はドキッとした。何だか冗談に聞こえない気がしたから、それくらい妖怪っぽい、
するといきなり、ほっぺたにチューをされ「あら、触り心地いい」と褒められた。
「はあ……どうも…」凄くすごーくヤバイ気がする。
「私ね、薬丸竜二って言うの。まあ…普段みんなはオーナーって呼ぶけどね。そして
この運転手は高橋豊って言うの。この子も私が見つけたんだけど、チョット歳食っていたからホストじゃなくて運転手をやってもらっているのよ。あなた、お名前は?」
「僕、水野肇と言います。」
「はじめちゃん?まあ、名前も可愛い!豊ちゃん、店に向かってちょうだい。」
「はい、店にこの子も連れて行くんですか?」
「そう、みんなに一応紹介しておこうと思って、明日から早速働いてもらうからね」
「僕、出来るかなあ…」
「はじめちゃんなら大丈夫よう…」
肇は僕の何を知っているんだと思いながらも オーナーの手が太ももの上に置かれているのが、気になって仕方がない。住と食に惹かれて付いて行く事にした肇だったが
不安でいっぱいだ。
10分くらい走ると 構えの大きな洒落た建物の前で止まった。ドアボーイらしき人が車のドアを開けてくれ 先にオーナーが降りた。
「お帰りなさい オーナー。」
「ご苦労様、今日の客の入りはどう?」
「まあまあです。今夜はマリア様が早めのご来店です。」
「そう…あら、はじめちゃん、早く降りて来なさいよ。」
「は、はい、」店の大きさに圧倒されびっくりして固まっていた。車を降りるとその
豪華さにまた固まってしまった。店の入口の上には(ノアの方舟)と店名がイルミネーションで光っていた。扉の左右にはギリシャ神殿風の柱が立っている。
オーナーはドアボーイに肇を紹介した。
「この子、明日から働いてもらうはじめちゃん、よろしくね。」
「はい、」
入口の扉の中は細長い通路になっていて 3メートル程歩いたところに また扉がある。そこを先程のドアボーイに案内され扉を開けてもらった。中に入ると大きなシャンデリアが目を引き、下は深紅のソファーが並び、煌びやかなインテリアが豪華な
雰囲気を醸し出している。こんな所に来たのは初めてだ。
もう客が入っているので ホスト達はオーナーの存在に気付くも軽い会釈で済ませた。そして、支配人らしき人が寄って来た。
「オーナー、お帰りなさいませ。お連れの方はどなたですか?」
「新しいホストよ。明日から働くからよろしくね。」
「水野肇です。よろしくお願いします。」
「また、どこで見つけて来られたのですか?」
「公園のベンチで寝ていたから連れて来たの。家もないみたいだから寮に入れる事にした。拓郎の隣の部屋が空いていたわね、拓郎は接客中かしら?」
「今、呼んできます。」
すぐに細身の可愛い感じの男がやって来た。
「拓郎、あなたの部屋の隣にこの子を入れるからよろしくね。いろいろ教えてやってちょうだい、お願いね。」
「水野肇です。よろしくお願いします。」
「あっ、はい、こちらこそよろしく。」
感じの良い人だ。肇はちょっと安心した。その時、
「オーナー、この子誰?」
身体の線が露わな薄いドレスを着た若い女性が寄って来た。
「マリアちゃん、いつもありがとう。でも今日は随分早いじゃない、どうしたの?」
「今日は嫌な客が来る日なの、だからずる休みしちゃった。」
「マリアちゃん、ママを困らせちゃダメよ。」
「今日だけよ、ママには内緒にしてね。」
マリアは手を合わせてオーナーに甘えた顔で頼んでいる。
「それより、この子どうしたの?」
「公園で寝ていたから 拾って来たのよ。はじめちゃんって言うの、明日からうちで働くからよろしくね。」
「へえー、公園ってこんなイケメンが寝ているの?あたしも拾いたーい。」
マリアは肇の横に並び肩に手をかけて「次に来た時は指名するからね。」と言い、
ウインクをした。
「はあ……どうも……」
その様子を少し離れたところから見ているホストがいた。ソファーから立ち上がると
つかつかと歩いて肇とマリアの間に割り込み 肇に向かって
「マリアちゃんは俺の客だから、遠慮しろよ!」と言った。
「もう、翔ったら、焼きもち焼かないの!たまにははじめちゃんに浮気してもいいでしょ。」
「やだよ!マリア!」翔はマリアの腰に手をまわしてグッと自分の方に引き寄せた。
「こら、翔!マリアちゃんはお客様なんだぞ!失礼なことをするな!」
と、オーナーが注意した。
「なによ、翔だって櫻子さんといい感じのくせに…」
マリアが口をとがらせて言った。
「もういい、今日は帰る!はじめちゃんまたね…」
慌てて翔が「ごめん、飲みなおそうよ」と言ったが「今日の翔は嫌い!」と言って
帰ってしまった。 翔は肇をじろりと睨んだ。
「すみません。明日からよろしくお願いします。」と肇が言うと
「知るか!」と一言。
働き始める前に もう嫌われてしまったようだ。
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