神喰少女

神無創耶

第一章 空白少女

第1話 空白《ブランク》Ⅰ

 ツツピン、ツツピンとシジュウカラの鳴き声で目覚めた。

 まだ肌寒く感じる春の朝、ガラスのない窓から冷たい風が吹き込んでブルリと身を震わせる。

 眠いながらもベッドから気怠げに這い出し、ヒンヤリと冷たい床に足をつける。

 魔術でも使えばいいのだけどあまり使うと自堕落になるのでダメだと決められているので守らなきゃ。

 隅に置かれた木桶を引きずり、満たされた冷たい水に顔を突っ込んで頭を覚醒させる。

 タオルを引っ掴み顔を拭きながらクローゼットを開き鏡に全身を晒す。

 腰まで届くふわふわのプラチナブランドの髪、鮮やかな藍色の瞳に所々小さな傷もある白い肌。

 惜しげもなく晒される小柄ながらも細く引き締まったお腹に、細い腰のくびれに反して豊満な胸と尻が主張している。

 髪を軽く指で漉きながら白いワンピースを着用した後に胸を上部から挟み込むと、自然と強調するさせるようになる。

 そのまま背中へとベルトを回し、固定して具合を確かめる。

 それにより体のラインがくっきりと浮かんでしまい、

 ワンピースのスカートの方も太腿が半分ほど見えるくらいにたくし上げられてしまうのをみて、こればかりはどうしようもないと落ち込んだ。

 すらりと伸びた手足を具合を確かめるようにストレッチをして身体をほぐして問題ない事を確かめる。

 クローゼットの奥にしまいこまれた銀朱色の湾曲した刀身を持つ双剣を、後ろの腰から背中にかけて交叉するように固定されたベルトの鞘に入れて固定してひと回りした後によし、と頷く。

「アマルフォス、ご飯できてるわよー」

「あ、はーい」

 母の呼ぶ声にこたえて扉を開ける。



「おはよう、アマルフォス。よく眠れたか?」

「うん、スッキリ!」

 父の言葉にグッとガッツポーズして答える。

 そんな私を見て父はそうか、と微笑んで椅子を引いてくれた。その厚意に甘えて椅子に座り、目の前にある琥珀色の液体に満たされた水差しで父のコップに注ぎ込むと、甘い果実の香りが広がる。

 紅茶の甘い匂いにお腹が思わず鳴ってしまって、お腹を抑える。クックッと笑いを堪える父を見て頬を膨らませる。

「はい、しっかりと食べて活力にしなさい。今日も狩りでしょう?」

 人数分の料理を並べて座った母の言葉にうなずき、昨日の狩りで獲れたジビエ料理をナイフとフォークを使って一口サイズに切り分け、口に運ぶと甘くも辛い味が広がって舌を満足させる。

「ところで、どこまで狩りに出るのか決まってるのか?」

「川の近くに大きな熊が出たらしいからそこに行く予定だよ。」

「そうか、ルーンの方は大丈夫か?」

「ん、うん。昨日のうちに新しいの刻んで貰ったから大丈夫!」

 視線だけで背中の鞘に向ける、いくつもののルーン文字が見えないように刻み込まれている特注品だ、でも、私のだけがいつもルーン文字に込められた魔力が喪失するのだ。

 そのおかげで何度か死にかけたけど、みんなのおかげで何とか生き残ってきたのだ。このジビエ料理だってその成果のひとつだ。

 父はそうか、とうなずく。

「やるなら、徹底的にやれ。決して容赦はするな。」

 でないと死ぬぞ、と今まで以上に真剣な目で言う父の目はどこか焦りと心配の色をにじませていた。なんでだろう?でも、いつも言われてることだからうん、と頷いた。

「それとだが」

 父が何かを切り出そうとしたその時、扉をノックする音が響いて中断させられる。

時計をチラリと確認すると、もう狩りに行く時間だった。

「あ、もう時間みたい、行かないと」

「……」

 口を拭い、食べ終えた皿を重ねて洗面台に置いて、部屋に一度戻ろうとすると父が声をかけてきた。

「アマルフォス、帰ったら話がある。」

「……?うん、わかった。」

「終わったらすぐにだ、寄り道はするな」

「う、うん……?」

 どこか焦りを滲ませた父は、いつも以上に言葉を重ねた。

 よくわからないまま私は頷いて、なめした革でできたブーツと胸当てをクローゼットから取り出し、装備しながら友達の待つ外へととび出す。


意識が途切れ、世界は暗転する────


 アマルフォス=バナオロツ、それが私だ。

 これは、私の空白から始まる復讐譚の物語サーガ─────

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神喰少女 神無創耶 @Amateras00

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