第12話 天使の国へ
天使の国へはどうしたら行き来出来るのか…それについて簡単に説明すると、意外かなトンネルを使う。僕の家の結婚式場の敷地内にそのトンネルはあった。
何処にでもあるというものではなく、ある程度まとまった範囲に一つずつこっそり作られていて、そこに入ると羽を広げて天使の国まで行ける。そうしてみるとこのトンネルを使ってマヤもこの国に来たのかも知れない。
トンネルは、あの給水塔の真下、一旦中に入って下へ降りる階段で向かうか、直接山の中腹にあるちょっとやそっとでは見つからない秘密の通路を抜けるか、その二つの方法があった。途中で合流している。僕に知らされていないだけでもっと他にもあるのかも知れない。
僕たちはその通路を通ってまた人間界に戻ってきた。疑心暗鬼か小さな音や何気ない影にドキドキした。そんな僕を心配そうに冴ちゃんが見つめていた。
「大丈夫だよ。ちょっとナーバスなだけ。もともと精神力はある方だと自分では思ってたんだけど、案外脆いな。それは認めるよ。でも、大丈夫だから」
「シン、ゆっくりすると良いわ。あの矢のことは改めて考えよう」
「うん、でもマヤを探すのは手伝って欲しんだ。この前の試合の相手の学校とか何か手がかりはあるかな」
「家に帰ってトーナメント表見てみる。相手の学校はわかると思う」
「行きは急いでたから飛んで行ったけど、帰りはゆっくり歩いて帰って来て少しは気持ちが落ち着いたんじゃない」
そう気を使ってくれる冴ちゃんが信じられないほど優しかった。
「あ!」
「あれ、トプカさんじゃない?トプカさんよ!」
「トプカさん!」
「やあ久しぶり。今日は何?向こうに行ってきたの?」
「はい、ちょっと知りたいことがって、でも、先生いなかったの」
懐かしい人に会うと一度に気持ちが和らぐ。僕たちは子供に返ったようにトプカさんにまつわりついてはしゃいだ。
「トプカさんは何の用?」
「お前のとこのセレモニーに使う鳩を補充に行ったんだよ。僕の鳩は優秀だからね」
「ああ、そうか鳩ね。トプカさん鳩育てるのうまいもんね」
「この頃気候の変化が気になって、餌の配合も教えておかないと鳩が弱ってしまうからな。お前の可愛がってた鳩もそろそろ役立つ時が来たよ」
そうか…あの鳩たちも仕事に来てるんだ。そんなちょっとしたことが励みになる気がした。
「トプカさん。飛んで帰らないのね」
「俺は昔から歩くのが好きでな。この道を何度行き来したことか」
「また来る?」
「ああ、また来るよ」
「天使の国の人に会えるなんて嬉しい。それに此処は天使の国の人しか知らない通路だから何を話しても大丈夫なのがホッとする」
冴ちゃんも安心したのか前の元気さを取り戻していた。
「トプカさんまたね!」
僕たちは大きく手を降ってトプカさんと別れた。
「私、こっちに来たらもう天使の国のことなんて考えちゃいけないんじゃないかって勘違いしてた。今日だって父さんも母さんも止めなかったし、気を張ってたんだろうな〜」
明るい前向きな冴ちゃんでもそう思うんだ。僕が思ったって不思議じゃない。深呼吸して息を吸ってはいて頑張ろうと思った。
天使の国から帰った次の日、さっそく休み時間になると冴ちゃんがトーナメント表を持って教室にやってきた。
「マヤがどんな名前かわからないから、どうやって調べるか悩むところなんだけど、でも、あそこに来てた学校はわかるから片っ端から当たっていく?」
「え〜こんなにたくさん来てたの」
「そりゃあ県大会だもん。あ、でも昼からの学校だと思うの。それに私たちの学校と当たった学校ならこの学校とこの学校」
冴ちゃんは熱心に説明してくれた。
「そうか、それなら絞れるね」
僕と冴ちゃんはすごく親しそうに、額が当たるほど寄せ合って秘密めいた会議をしていた。
「何をしてるの?阿弥陀田らしくもない。女とベタベタして」
「べタベタなんてしてないよ。女って冴ちゃんだぜ」
「だいたいさ誰に対しても呼び捨てのお前が、なんでコイツだけ冴ちゃんなんだよ。僕だって天野って呼ぶのにさ」
「マズイよ。なにか誤解されそうだ」
「いいよ。そんなのどうだって、私はシンを意識してないし、シンだって私のこと女って思ってないでしょ」
「でも、噂によれば僕モテるらしいじゃん。だからお前がこのクラスに逃げてくるって」
「誰情報?」
「山崎、前にそう言ってた」
「そんなの関係ない。今はもっと重要な問題と取り組んでるんだよ。はい、この学校とこの学校メモして」
「あ、はい」
冴ちゃんは今日は何時になくキリッとしている。わけのわからない剣幕に、朝ケ谷もそれ以上近寄らず眺めていた。
「私今日行ってみる。まずはバスケ部を覗いて見るから。ユニホームで確認で来ると思う」
「はい、宜しくおねがいします」
冴ちゃんの迫力は本格的で、二人の仲を疑う朝ケ谷のチャチャも宙に浮いていた。
「なんだよ。天野ツンケンして、からかったから怒ったの?まさか、お前のこと好きなの?」
「違うよ。友情だよ。友情。そういう男と女もあるんだよ。羨ましいだろ、そういうの」
「まさか、気色悪いよ。男と女は恋人同志が良いよ」
「へえ〜それで」
「なんだよ」
恋人同志が良いという朝ケ谷が頼もしく見えてからかってやった。
僕の気絶は朝ケ谷の出血のせいだとみんな思っていたから、そう思わせとけば問題にならないかと都合よく訂正しなかった。
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