第二章
第二章 1
「私が出した結論、AさんはBさんの幼馴染じゃないか?透夜君のさっきの反応だと、Bさんはみんなに彼女が幼馴染だということは伝えてなかったんだよね。だけど、彼女からみんなに幼馴染だということを伝えている可能性もある。しかし私は彼女がAさんだと思うよ」
神谷が…アヤメ?そんなわけ…神谷は人を殺したりなんかしない。宮下を自殺に追い込んだだなんて。西鷹は朝の神谷を思い出した。神谷は宮下の事故を聞いた時、笑っていた。
違う、違う、違う。ずっと自分に言い聞かす。神谷には僕がいじめられていることを伝えていない。
「透夜君。これは所詮私が考えた仮説だ。真実かはまだわからないよ」
そうだ。また決まったわけではない。
「…相談にのってくれて…ありがとうございます。あとは自分で何とかします」
自信のない、弱々しいお礼を言った。下を向きながら拳を握りしめる。するとおじさんは頭をわしゃわしゃと撫で回してきた。
「あんまり一人で抱え込むなよ。何かあったらすぐに私の元へ来なさい。何でも話を聞いてあげるから。一人で寂しかったらいつでも来なさい、大歓迎だよ。息子達も喜ぶ」
本当に優しい人なんだな。きっとおじさんはBさんが僕だってことに気づいているんだろう。けれど敢えて口にしないのは僕を思ってのことだ。こんな優しい人にまで迷惑をかけたくない。
「…はい」
これからは一人でどうにか頑張ろう。まずはおじさんの話しが正しいのか聞きにいく。店を出ておじさんと別れてから走り出した。向かった先は、神谷と書かれた名札が付いている家。
ピンポーン
迷いもなくインターホンを押した。出てきたのは神谷だった。息を荒くしながら神谷を見る。神谷はキョトンと大きな目を見開きながらこちらを見てきていた。
「どうしたの?透夜君」
「少し、話したくて」
「走ってきたの?疲れてるでしょう。どうぞ、上がって」
神谷の家へと入る。一ヶ月前と変わらない暖かい空気に包まれている。段ボールもだいぶなくなっていた。
「座って」
リビングに行き椅子にもたれかかる。神谷はストロベリーティーを注いでくれた。けれど今はそんなの呑気に飲んでられない。今から重要な話をするのだから。
「あのさ、神谷。雛菊って知ってる?」
「雛菊?なあにそれ?」
神谷は首を傾げて不思議そうにしていた。
「惚けないでほしい。正直に答えて。君が、アヤメなの?」
暖かかった部屋の空気が一瞬で冷たくなった感覚になった。真剣な顔で神谷を見つめていると神谷は俯いた。何かしでかしたかな、と不安になり神谷の顔を覗き込んだ。
「あはは、よくわかったね」
そんな不安も一気に吹っ飛ぶ。神谷は急に笑い出した。僕には何故笑っているのかわからない。
「神谷?」
「ごめんね、あまりにも透夜君が真剣な顔で見つめてくるから、面白くて。私がアヤメだってよく気付いたね」
神谷は肘をついて顎をのせた。そして顔を傾け大きな目を細くして見てきた。その目は僕の心の中まで見透かしているように感じた。
「…宮下を殺したのは本当?」
「うーん…殺したっていうか、自殺寸前まで追い込んだっていうのが事実かな」
スラっと白状する姿に驚きが隠せない。神谷は答えるのに時間はかからなかった。
どうして…
そんな言葉が口からこぼれそうになったが原因はもうわかっている。自分のせいだ。
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