第一章 9
『わかった。私もっと霞の役に立ちたいから、頑張るね』
『ちょっと待って、もっと役に立ちたいって』
打ち込んでから、送信する手を一度止める。アヤメとのメールをもう一度読み返す。宮下が亡くなる前、アヤメは僕の役に立ちたい、と言っていた。
そのあと宮下は死んだ。そしてそのことを伝えるとアヤメは'もっと'役に立ちたいと言った。嫌な予感が頭をよぎる。いやそんなわけない。宮下という名前は一回も口にしたことがない。頭が混乱してくる。
信じたくない、そう思いながらも疑っている自分がいる。聞くのが怖い。震える手をゆっくりと動かしていく。
『宮下を殺したのは、アヤメじゃないよね?』
送信ボタンを押す。やったのはアヤメじゃない。あれは自殺だ、宮下が自ら行った。頭を横に振り疑っている自分を否定しようとする。
そんな否定もアヤメの一言で覆った。
『うん、そうだよ。私が彼を自殺に追い込んだ』
スマホが手から滑り落ち、鈍い音をして床に落ちる。ショックで口が閉じず、手も震え、落胆する。床にへたり込み、もう一度文を読み返す。けれど何度見ても同じ。
アヤメは続けて文を送ってきた。
『霞、あの人が死んで嬉しかったでしょう?』
嬉しい。いやそんなことは…ある。クラスメイトが隣で宮下が事故にあったと聞いた時正直ホッとした自分がいた。喜んでいる自分がいた。やっと地獄から解放される、と。
『まだ霞をいじめてきた人がいるんだよね。私に任せて』
だめだ。これ以上人を殺さないで。確かに、あいつらさえいなければ僕の人生はまだマシだったはず。だけど…
『やめてくれ。これ以上、人を殺さないで』
『どうして?霞だってあの人達に消えてほしいって願ってるでしょう?私は人の悩みを聞いてできる限り解決してあげたいと思ってるの。それに私は殺してなんかいない。向こうが自ら命を絶つことを選んだのよ』
どうしよう。何を言っても聞いてくれない。止められない。
『私はまたやることあるから、少し連絡できなくなる。また話そうね』
どうすればいいんだ。試行錯誤するもいい案が思いつかない。相談できる相手もいない。混乱に陥っていると誰かがインターホンを鳴らした。
心を落ち着かせ、大きく空気を取り込む。ゆっくりとドアを開けると宅配便のお兄さんが立っていた。少し騒がしかった脳内が落ち着いた。
宛先を見ると西鷹透夜と書かれていた。送り主はお母さんの兄であるおじさん。おじさんはよく僕に気を使っては色んなものを送ってきてくれる。僕の少ない、心を許せる相手。この人なら、相談できるかも。
思ったらすぐに行動に移した。
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