第一章 8
アヤメと最後に話したのはおととい。それから向こうから連絡が来ることもないし自分から連絡することもない。
いつもはアヤメから連絡が来ていて自分からは一度も話しかけたことがない。最初になんて言えばいいのか分からないのだ。
二日間だけ話していないだけでこんなにも不安になるし、寂しいと思うのは小学生ぶりだ。
アヤメとのメールの履歴を眺めていると気づけば学校に着いていた。また何か入っているのではないかと恐る恐る下駄箱を見るも今日は何も入っていなかった。遠くから救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
何があったのだろう。けれど別に関係ない。そう思いながら教室へ向かうとやけに騒がしかった。疑問に思いつつも気にしないふりをしてそのまま席に座り本を読んでいた。
すると衝撃の一言を耳にした。隣の席の女子が言った言葉。
「宮下、事故に遭ったんだって」
事故、というキーワードを耳にしてビクンと体が震えた。
事故にあった?あの宮下が?何かあったのだろうか。聞き間違いだろう。
「今日の朝、警察とか救急車とかいたのってそのせいだったんだ」
僕の心臓が激しく弾む。
「亡くなったのかな?」
「分かんない。人が多くて見えなかった」
死んだかは…分からないのか。さっきまでの胸の高鳴りは収まってしまった。
「みんな、今日は学校は休校だ」
走ってきた先生が息を荒くして言った。みんな学校が無くなったのが嬉しかったからなのか騒ぎ始めた。チラリと神谷の方を見た。ゾッと背筋が伸びた。先生の話を聞いた時神谷は笑っていた。この目でしっかりと見た。すぐに目を離して下を向く。
とんでもない寒気が襲ってきた。嫌な予感がする。なんで神谷は笑ってるんだ。あれほど仲良くしていたというのに。普通なら悲しむだろう。神谷が人の不幸を笑うはずがない。気のせいであってほしい。
すると宮下といつも一緒にいた連中が顔を真っ青にして聞いた。
「先生…宮下は…」
一瞬でクラスが静まり返る。みんな目線は先生へと向いていた。
「今は何とも言えない。分かり次第伝える。さあさあ帰った帰った」
先生に急かされ慌てて学校を出る。職員室に警察が入っていくのが見えた。結構な大ごとになっているらしい。
下駄箱に行くと神谷と目があった。神谷はニコッと微笑んでくる。話しかけようか迷っている間に他の女子が神谷の元へ走ってきてしまった。
また話しかけられずに学校を出た。
それから宮下の死を耳にするのには時間はかからなかった。テレビをつけると西鷹の家の近くの駅で人身事故があったとの報道があった。
亡くなった人の名前を見た時は驚いた。それが
自殺だ。
あの宮下が自殺?そんなわけ。しかしテレビは嘘をつかない。これは真実なんだろう。
ニュースを見た時に始めに手をつけたのはアヤメとのメールだった。
『僕を虐めてきた奴が、死んだ』
自分から送る最初の一文がいじめの主犯格が死んだ、との報告だとは。けれどいち早くアヤメに伝えたかった。
返事が返ってくるのに時間はかからなかった。
『それはよかったね。あなたを虐めていた人達は他に誰?』
『えっと…』
軽い心で一人ずつ名前を伝えた。
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