第一章 5

『初めまして、霞さん。私は雛菊のマスター、アヤメ、と言います』


『初めまして』


『何かお悩みがあるのですよね。何でも聞きますよ』


『それじゃあ悩みを言う前に一つ聞いてもいいですか?』


『はい、どうぞ』


『虐めが起こる原因として、虐められる側に原因はあると思いますか?』


『簡潔に言うと、私は虐められる側に“原因”はあると思いますが、それは決してその人が悪いわけではありません。虐められる原因は容姿が綺麗だから、頭がいいから、気に食わないから、性格がウザイから、などといったその人の個性です。その個性がイジメの原因だったとしたら、それを“理由”として虐めてくる人が悪いんです』


 そっか。宮下もきっと僕の存在自体気に食わないのだろう。だから僕をいじめた。


しかしそれは僕のせいでは無い。僕自身の個性を嫌ったあいつが悪い。


『答えてくださりありがとうございます』


『いえいえ』


 この人になら話しても大丈夫、そう思って相談してみた。


『あの、相談があるんですけど。僕、虐められていて』


『うん』


『虐めが始まったのは中学に入った頃からで特に何もしていないのに急に虐められました。しかし先程の話を聞いてわかりました。きっと僕みたいなインキャが気に食わないんでしょうね。だから僕はいじめっ子らと違う高校を選んだのに、運悪く同じになってしまいました。そしてそのイジメは高校にまで続いて、今でも暴力を振られたりしています』


 ざっと説明し終わる。それまでアヤメからの返信はなく黙っていた。画面越しだと相手がどう言う顔をしているのかがわからない。


 それがいい、と言う人もいるけれど。


『そうですか、それはひどい。周りの人達は何か助けてくれたりしたんですか?』


『いいえ。みんな、矛先が自分に向くのが怖いんでしょう。僕がその立場だったとしたらわかります。助けてあげたいけど、自分が虐められそうで、怖くて体が動かない。そんなの誰だってそうです』


『確かにそれはそうですけれど、私が貴方と一緒のクラスだったら助けてあげたい』


『あはは、ありがとうございます。そう言っていただけるだけでも嬉しいです。なんか少し楽になれました』


『いえいえ。少し重い話はこれで終わりにして、少し明るいお話をしましょう。私イチゴが好きなんですが、霞さんは好きなフルーツはありますか?』


『僕もイチゴ好きなんです。小さい頃よくイチゴ狩りに行ってました』


 懐かしい記憶が蘇る。小さい頃、両親が僕の誕生日の日に連れて行ってくれた。


朝から車に乗って空を眺めながら高速道路を過ぎ去り、イチゴ農園についた。たくさんのイチゴを目にして、こんなにも種類があることをその日初めて知った。


『イチゴ狩り、いいですね。私はショートケーキが好きなんです』


『わかります。美味しいですよね』


 よく食べたな、ショートケーキ。お母さんがよく作ってくれていた。あれは、どこの店のケーキよりも美味しかった。

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