第12話 お情け?
56-012
て食べられる商品が消されている現状を目の当たりにした美沙は自分の道を見つけたのだ。
翌日から、赤城課長ら営業は手分けをして、各取引先に廃番商品の説明を行った。
殆どの取引先は「仕方が無いですね、他のメーカーに変更出来るので」とか、「もう販売を辞めます」等の返事が返ってきたが、納得をしてもらえない十社程の取引先は、赤城課長が担当営業マンに同行して説得に向うようにした。その中にあの小諸物産も含まれていた。
小諸物産の社長は大変ご立腹だと部下の山下が泣きついて来たので、赤城課長はモーリスに行く日に合わせて小諸物産に直接アポを取った。
その頃モーリスでは、千歳製菓が製造アイテムの削減を始めたとの情報を掴んでいた。
「来週、あの営業課長が来社しますので、そろそろ何か企画を提案しますか?」と村井課長が話を切り出した。
「今の状態は部長の思惑通りですね!」と庄司が言った。
「その通りだ!我社への納品で千歳製菓の生産を一杯にさせ従来品を削減させる。そして取引先の減少に導く。だが、次期社長に京極専務が就任しなければ作戦は頓挫するだろう」
「その対策としての部長のお考えはございますか?」と村井課長が聞いた。
「もう少し瑠美子を専務に近づけてみるか?専務が社長に就任すれば、千歳製菓を自在に操ることができる。計画の達成は近いぞ」
「でも、今は完全に酒田常務の勢いが増さっている様ですね」
「酒田常務の担当しているキャラクター品が増えて、設備投資をさせる手助けにはなったが、増えすぎると今度は弊害になるな。この辺りで少しブレーキを掛けさせなければ、社長の座を持って行かれてしまう可能性も有る」
「さじ加減が難しいですね!」と庄司が言った。
「キャラクター商品の製造のために、商品整理が行われたのだから!止めるわけにはいかないだろう」
「我々は従来通り、頒布会をちらつかせて行けば宜しいですね?」と村井課長。
「そろそろ具体的な試案を出す必要があるだろう。京都の宇治茶メーカーとのタイアップ商品を企画して喜ばせてやれ!」と松永部長が指示をした。
「玉露堂を使うのですね」
「そうだ!老舗の茶と四季の菓子のコラボだ!玉露堂の富田社長は既にこちらの言いなりだから簡単だ。具体的な企画は村井課長の方で進めてくれ!」
「はい、判りました」
三人は千歳製菓の乗っ取り計画が第二段階に入った事を確認して次の行動に移った。
その計画が話し合われた直後に、赤城課長と山下は商談をするためモーリスを訪れた。
商談室で待つ山下は初めて見る置物と大きな魚に目を奪われ圧倒されている時に庄司が入ってきて、開口一番「再来年一月から頒布会に千歳製菓さんも採用になる事が決まりました」
「えっ、再来年からですか?ありがとうございます」
「今回は御社の製造ラインの関係もありますので、玉露堂さんとのコラボ企画になります」
「玉露堂?」
「京都の老舗のお茶屋さんです。銘茶と季節の和菓子のセット企画で、年間六万八千円で毎月京の銘茶と和菓子の詰め合わせがお客様に届くのです!」
「セットと発送する作業はお茶屋さんですか?」
「いいえ、千歳製菓さんでお願いしたいと思います。茶は冷凍出来ますので大丈夫です」
「判りました!社に持ち帰って段取りを致します」
「今回の企画で良い売上が出たら、その先には本格的に頒布会の仕事を始めましょう」
その後は、現状の企画の話に移り「夏の企画は予定数量より増えるので準備を万全に」と庄司はそう言って笑顔で商談を終えた。
「やりましたね!」山下がモーリスを出ると直ぐに赤城課長に嬉しそうに言った。
「だがな!次行く小諸物産の様な取引先が消えてしまうのも考え物だよ!」
「憂鬱です!電話では凄く怒っていましたからね!」
喜びも半分になって小諸物産に向った。
「モーリスの犠牲になったのですか?」二人の顔を見た途端小諸社長が恐い顔で言った。
「いいえ、それだけではありません!実はキャラクター商品の製造を始めたもので、そちらの方が予定の倍以上売れまして、工場が廻らなくなりました!本当に申し訳ありません!」立ち上がって頭を下げる二人。
「キャラクター商品?それは何?」小諸社長も虚を突かれた。
「山下君、お見せしなさい!」
持参した紙袋から小さな饅頭を机に並べて置いた。
「アヒルの様に見えるが?何だ?」小諸社長は手に持って不思議そうに眺める。
「テーマパークの売店で、箱詰めにして売るのです!」
「ああーこれはあの有名なアヒルか?」漸く理解出来たのかわずかに笑みを浮かべた小諸社長。
その様子を見た赤城課長は「あの様なテーマパークの売れ行きは、私共の予想を遙かにオーバーしていまして、生産が追いつきません!それで今回の様な事に至りました!申し訳ありません」と再び詫びた。
「外資は契約に五月蠅いからなぁ」
「そうなのです!ペナルティが半端では無いのです!」
「処で、モーリスにも商品を納めているのだろう?」
「はい、昨年五月の節句と彼岸団子は納品しましたが、その後はまだ何も決まっていません」
「そうだろう?あの会社は自分本位で取引先の事は全く考え無い!一年分前払いで客からはお金を貰っていながら、製造するメーカーへの支払いは半年先だ!儲かって笑いが止らないだろう。千歳製菓さんも二回の取引で終ったのだな。大怪我にならずに良かったじゃないか?」
小諸社長の顔から怒りが消えて穏やかになっていた。
「私の仕事の邪魔をモーリスにされたと思っていたので、怒ってしまったが理由が違うなら致し方無いな」
話の成り行きで言い出し辛くなった二人は、最後までモーリスの話をする事が出来なかった。
「アイテムを少なくしたのは、君の会社が儲ける為だろう。だったら今後は助けると思って小ロットでも送ってくれないか?君の会社の商品を待っている老人がいるのだよ!助けて欲しい!」
今までお世話になっていた小諸社長に懇願されては断り切れずに「小ロットで発送します」と約束をしてしまった。
「課長!小ロットで送ると、会社に叱られるのでは?」小諸物産を出ると山下が気にして尋ねた。
「何とか専務に話をして今回だけ許可して貰う、君は安心していなさい」赤城課長はモーリスの頒布会の話をネタにして京極専務を騙してでも、お世話になっていた小諸物産を守ろうと考えていた。
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