第33話 衛兵長からの提案
最寄りの町ディセルン。前にザウレン率いる盗賊達を引き渡した時にお世話になった町だ。
あの時はドルファーさんと一緒だったから、多少の不自然さは気にされなかった。
だけど今回は僕とセレイナさんだ。子どもとお姉さんというよくわからない二人が、捕えた王国の柱団を歩かせている。
もちろん町の人達からヒソヒソされるし、皆が僕達を避けていた。
「クソォ……。俺達がこんなクソガキどもに……」
「いいから歩いてよ」
「魔力さえ尽きなけりゃ……」
「尽きてなくても、あなた達は負けたんだよ」
手錠で拘束されながらも、グンダムの悪態は止まらない。
いくら恨み言を言われても魔術真解に失敗したのはこの人達だ。
セレイナさんによれば魔術真解は魔術師の到達点だけど、もろ刃の剣でもある。
この人達みたいに失敗すると、それ以上の伸びしろはほぼ期待できないらしい。
魔術は心の強さでもあるから、そこが限界だと決め打ちしてしまうと修正は困難だと教えてくれた。
修正しようにも無意識のうちにそこが限界だと思い込んでしまう。
せっかくの才能をそうやって腐らせた魔術師が過去に何人もいたと聞いて怖くなった。
「セレイナさんは魔術真解はできないんですか?」
「うん。たぶん一生できないんじゃないかしら? だって自分の限界なんて誰にも決められたくないもの」
「そうですよね……。僕も嫌です」
「リオ君はこのおじさん達みたいにならないでね。あなたはまだまだ……まーだまだ伸びるから」
「はいっ!」
セレイナさんに頭を撫でられた。今は不思議と恥ずかしいと思わない。
僕達の会話に聞き耳を立てているのは捕まっている王国の柱団だ。
「おーおー、ガキ……。お前の魔術は何なんだよ。属性は何だ?」
「魔石術だよ」
「魔石術だぁ?」
「たぶんこれは僕だけの魔術だ」
クルートは首を傾げながら歩く。自分達が負けた手前、バカにすることもできないといった感じだ。
最初は嫌だったけど今では僕の誇りだからね。この魔術があったからこそ、イムルタの皆を助けられたから。
「ここが詰め所だよ」
「おや? 君達は……」
衛兵魔術師が詰め所から出てきた。
そして捕えらている王国の柱団と手配書を見比べて、少しずつ顔色が変わっていく。
「こ、こいつら、まさか王国の柱団!?」
「そうです。引き渡します」
「マジか! おぉい!」
衛兵魔術師が仲間を呼ぶと、いよいよ大騒ぎになった。
話によると王国の柱団は王都の魔術師団派遣の要請を検討するほどの暴れ者らしい。
隊長らしき人が出てきて、王国の柱団と僕達を交互に見た。
「君は以前、盗賊達を捕えたリオという魔術師か? 中年男性と一緒にいたと聞いていたが……」
「はい。ドルファーさんのことですね」
「やっぱりそうなのか。あの時、私は不在だったからな。改めて感謝する」
「ということはあなたが衛兵長ですか?」
「挨拶が遅れたな。私が衛兵長のブランだ」
衛兵長のブランさんが握手を求めてきた。衛兵魔術師の白いローブに加えて、金色の縁取りがある。
「そうかそうか……。このクルートとグンダムは確か【上】だったはずだが……」
「セレイナさんのおかげで勝てました」
僕がそう言うとすかさずセレイナさんが僕の肩を掴んで「この子のおかげよ」とアピールした。
それから王国の柱団を捕えている魔石の拘束具を解除する。
ブランさんは初めて見るから、思わず声をあげていた。
「こ、これが魔石で出来ているというのか? しかも自由自在とは……地属性の魔術に似てなくもないな」
「うふふ、隊長さん。リオ君の魔術は魔石術よ。魔石なら何でも生成できて、形も自由自在なの」
「そんなもの聞いたことがないぞ……。ううむ、
セレイナさんが遠慮なく僕の魔術を売り込んでいるように見える。
ちょっと恥ずかしいけど、それだけ評価してくれている証拠だ。
王国の柱団が一人ずつ、詰め所奥にある牢屋に入れられていくのを見守った。
魔力を抑える魔道具を新たに取り付けられて、王国の柱団はまた無力化する。
今もまだ魔力が完全に失われているからまだ元気がないし、このまま無期限の鉱山労働あたりになるのかな。
それからブランさんはイムルタのことを聞いていたらしく、あれこれ質問をしてきた。
イムルタには豊富な資源があって、生活には問題ない環境が整っていること。
ほぼすべてを僕の魔石で賄っていて、家の耐久性や防衛力も強化していること。
ティニー一家のおかげで医療面の不安も解消していること。
ブランさんは何度も頷いて、ほぉとかふぅむとか何回も言ってる。
「聞けば聞くほど興味深い。そこで相談がある。一度、この話を町長の耳に入れていいか?」
「いいですよ。ブランさんは町長と仲がいいと聞いてました」
「おっと、誰が口を滑らしたんだか。いや、いいんだけどな。もし町長が興味を持てば、視察団を派遣するかもしれん」
「視察団!?」
予想してなかった単語に僕は驚く。
ブランさんによると、僕が言ってることが本当ならイムルタはディセルンと交易をおこなうに相応しい集落ということだ。
あくまでこれはブランさんの意見だけど、町長も気に入る可能性が高いらしい。
もし視察団に気に入ってもらえたら、リーバズは飛躍的に物が溢れるようになる。多くの人だって訪れるし、住民だって増えるかもしれない。
僕がワクワクしていると、ブランさんが優しく笑った。
「まぁ確実な約束はできないけどな?」
「いえ、ありがたいです。ぜひお願いしたいです」
浮かれてばかりもいられない。
もし町長が気に入ってくれたら、イムルタはディセルンと並ぶ町に発展する可能性がある。
そのためにはまず誰が住んでも快適になるような場所にしていきたい。
難民の人達と一緒にイルミーアさんもイムルタに住むと言ってくれたから心強い。
しかも魚の養殖について相談してみたら、快く引き受けてくれた。
水の魔術と僕の魔石術があれば、簡単にできるらしい。そうなるとまたウヌギが食べられるようになる? 今から涎が出てきた。
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