第26話 ウォータースライダー
児童施設建設開始から一ヵ月、かなり早く完成することができた。
グラシオさんによると、この規模の施設を一ヵ月で完成なんてありえないらしい。
僕もそう思う。ここまで早く完成できた要因としては、まずユウラを始めとした作業員が優秀だからだ。
どんなに重い建設材料でも、ユウラなら軽々と持ち運べる。それでいてグラシオさんの指示を理解して、適切に建築作業を行っていた。
あまりのバイタリティに、グラシオさんはユウラを本気で弟子にしようかと考えているほどだ。
ユウラがそれでいいなら僕も応援する。誰かに必要とされるってすごく幸せなことだからね。
他にもドルファーさんのところで修行に明け暮れていた人達が手伝ってくれるようになり、効率はますます上がっていた。
ユウラに加えてドルファーさん達みたいな力持ちが本気を出した結果だ。こんなに作業が捗った現場は見たことがないとグラシオさんは言う。
「リオ! お前もよくやった! 釘だとか、細々としたものを追加で頼んで悪かったな!」
「いえ、おかげで僕も勉強になりました。児童施設くらいの規模になると、かなりの材料が必要になるんですね」
「あぁ。お前が材料を作ってくれるし、作業員が優秀だからな。これならどんな現場でも、半分以下の工期で仕事を終えられる」
「すごいですね……。皆さんがいた町は惜しいことをしましたね」
グラシオさんは町一番の大工と言うだけあり、その指示や計画が完璧だった。
こんな人が今頃、盗賊に殺されていたかもしれないと思うとゾッとする。
「それを言うならリオ、お前もだぞ。あれなら、どんな災害がきても怖くない」
「壁に使った魔石には【風耐性】【水耐性】【火耐性】【地耐性】【斬耐性】【打耐性】【突耐性】がてんこ盛りですからね……」
「魔石ってやつはすごいな。俺はこれまでいくつも家を建てたが、そんなもん使うなんて発想がなかった」
「良質な魔石が昔と比べて採れなくなってるみたいですからね」
この集落が元鉱山町だったように、今では魔石なんて採りつくされているかもしれない。
だけどロシュフォール家の二人が僕に魔石を作らせたように、需要はあると思う。今は何でも魔術でやっちゃうみたいだけどさ。
僕が遊具周りの製作に手をつけていると、ユウラが傍らで膝を抱えて座っていた。どうしてそこにそんな姿勢で?
「リオ、滑りたい」
「あ、ちょっと待って。まだ最終調整ができてないからね」
「いつ?」
「お昼までには終わらせるよ」
水魔石を組み込んだウォータースライダーにはすでに水が流れている。
ユウラは目をキラキラと輝かせて、今か今かと待ち構えていた。その隣にはセレイナさんが同じ姿勢で待機している。仕事は?
「リオくーん! はーやーくー!」
「はやく」
女の子二人が急かしてくるけど落ち着いて最後の調整だ。
魔石術で形を修正して、怪我がないようにプール側もチェック。一通り終わって一息つくと、ぎょっとした。
「な、なんでもう脱いでるんですかっ!」
「なーに恥ずかしがってるのよ。水着に決まってるじゃない」
「みずぎ……」
「リオ君のエッチー」
それでも水着というのは裸の一歩手前、目のやり場に困る。
ちょっと露出が多いと言うか、肌が見えている面積が広いというか。目を逸らしつつ、僕は最終調整を終えた。
後はこの二人に遊んでもらって感想を聞かせてもらおう。危ない箇所があると大変だからね。
子ども達に何かあったら大変どころじゃない。セレイナさんはどうせ何も考えてないけど、実は責任重大だ。
そして大人げないセレイナさんがいち早くウォータースライダーの階段を上っていく。
「そーれっ!」
セレイナさんが滑り始めると、水の流れと一緒にウォータースライダーを滑っていく。
三回転ほどした後に終点のプールにどぼんと突っ込んで水面から頭を出した。
「きんもちぃぃーーーーー!」
「喜んでもらえてよかったです。何か危ない箇所とか気になった部分はありますか?」
「え? なんて?」
「え、じゃなくてですね。何もないならいいんですけど……」
「んー、そうね。もう少しプールを広くしたほうがいいかもしれないわひゃあぁっ!」
何事かと思ったらユウラが続けて滑ってきていた。
セレイナさんの背中にユウラが突っ込んできて、二人してプールに沈む。
というかユウラ、いつの間に水着に着替えたんだろう?
見慣れていないせいか、どうしても直視できない。
「ユウラちゃーん! 危ないでしょー!」
「ごめん」
「じゃあ、今度は二人一緒に滑りましょうね!」
「うん」
楽しんでもらえるのはいいけど、二人だけで延々と楽しんでいる。
ひとまずプールの拡張を考えよう。ここだけはほとんど僕の魔石だけで作られているから、すぐに加工できる。
魔石で作られたプールをググッと広くすると、確かに見た目的にもゆとりがある。
延々と遊んでいる二人の声が聞こえたのか、集落の人達や子ども達が見にきていた。
「なぁにあれ?」
「面白そう!」
「やってみたいー!」
子ども達がユウラ達以上に目を輝かせている。
どうしよう? 本当はまだ先の話だけど、ここでお預けというのもかわいそうかな。
セレイナさんが上がってくると、子ども達にウインクをした。
「水着もあるから今からたっぷり遊べるわよ!」
「ちょ、セレイナさん。勝手に……」
「リオ君のもね」
「僕のも!?」
確かに作った本人が試さないというのもおかしな話だ。
仕方ないからなぜか用意周到なセレイナさんのおかげで、僕も水着というものに着替えることにした。
僕に用意されていたのは短パンみたいなシンプルに履くだけの水着だ。
なるほど。女の子用とは違うわけか。セレイナさん、よくこういうことを知ってるなぁ。
「じゃあ、順番に滑るわよー!」
「はーい!」
すっかりセレイナさんが仕切ってるし、もう任せていいかな。
順番に子ども達がウォータースライダーを滑ると、きゃっきゃと楽しんでくれている。
こうして見ると作った甲斐があったなと思う。一人、納得しているとユウラがやってきて手を取ってきた。
「ど、どうしたの?」
「一緒に」
「滑ろうって?」
「うん」
ユウラとウォータースライダーの頂上に着くと、ぴたりと密着してきた。
ドキリと心臓が高鳴る。こんなに女の子と密着したことがあったかな? これっていけないことな気がしてきた。
「ていっ」
「わぁーーーー!」
いきなりユウラに押されてウォータースライダーを滑り出した。水の流れに沿って、実に気持ちいい。
最後にプールに突っ込んでから頭を水面から出すと、陽光が照りつけた。
「アハハ……! これ、いいね!」
「うん」
自分で作ったものに僕は感動してしまった。
お日様の下でこんな風に遊んだことがなかったし、子ども達も喜んでくれている。
水をかけられたりかけたり、こんなに楽しいことがあっていいのかな?
それから日が暮れるまで僕達は遊んで、夜は泥のように眠った。
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