第25話 家々と児童施設
「リオ君! 盗賊討伐、ナイスー! あら、ご機嫌ななめ?」
「ナイスーじゃないんだよなぁ」
セレイナさんが軽快に挨拶してきた。僕が不機嫌な理由なんて聞かなくてもわかるはずだ。
盗賊を油断させるという理由があっても僕は最初、女装なんて反対した。
断固拒否したんだけど、もっともらしい理由を立て続けに言われて渋々着ることにしたんだ。
「ごめんね。少し悪かったと思ってるわ」
「少しって。昨日だってユウラが僕に女の子の服を着せようとしてきたんですよ! お風呂から上がったら、さりげなく女の子用の服が畳んであるんですから!」
「気に入ってもらえたのね。いいものはいいと見抜く。あの子、いい感性してるわ」
「何もよくないんだよなぁ」
「まぁまぁ」
セレイナさんが僕の肩を揉んで機嫌を取ってくる。思えば、僕にあれを着せて一番はしゃいでいたのはこの人だ。
「ていうか、あんなのいつどうやって作ったんですか」
「ご婦人達の協力あってのことよ。それに布地なら私が持ってるからね」
抜群の協力体制の前に僕は何も言えなくなった。
あれから難民の人達にも女の子と間違われるし、なんで誰一人として男の子だってわからないの? 僕ってそんなに女の子に見えるの?
「あれのせいで子ども達にまで気に入られちゃいましたし、この後どうすると思ってるんですか」
「あら、難民の子ども達?」
「そうですよ。行き場がないから皆さん、来ていただきました」
「そう、それはいいことしたわね」
「これから家も作らないといけませんし、大忙しです。セレイナさんにもたっぷりと手伝ってもらいますからね」
逃げの姿勢を見せたセレイナさんだけど、ユウラがしっかり出入口をガードしていた。
こういう時にこそセレイナさんに協力してもらわないといけない。 こんな人だけど、相談役としては本当に信頼してるよ。
今回、二十人くらいの難民の中には子ども達がいる。ここに来る前は大人の仕事の手伝いをしていたみたいけど、個人的にそれはやってほしくなかった。
だから子ども達がのびのびできる環境を用意したい。それをセレイナさんに伝えると、ニンマリと笑ってくれた。
「リオ君」
「はい?」
「あなたは偉いわ。自分のことよりも他人のことを常に考えているのね」
「ぼ、僕もそれくらいは……」
頭を撫でられて顔が熱くなってきた。身長差もあって、なんか恥ずかしい。
「それなら児童施設なんかはどう? 身寄りのない子ども達を集めている施設なんだけど、遊び場なんかもあるのよ」
「児童施設……それいいですね!」
「集落の人達の中から児童施設で働く人達を募集してさ。それなら子ども達が遊んでいる間に大人達が働けるでしょ」
「そうそう! それです! じゃあ、さっそく長に相談しますね!」
「あ、ちょっと! 行動はやっ!」
長のところへ走り、児童施設の相談を持ちかけた。長は黙って僕の話を聞いてくれて、そして静かに頷く。
「うむ。君は優しいの」
「そ、そんな……」
長にまで褒められた。無事、許可が貰えて嬉しい。嬉しいけどまずは難民の人達の家作りが先だ。
この日から僕は難民の一人、大工のグラシオさん監督の下で家に必要な建築素材を魔石で作り始めた。
災害にも強くなれるように硬魔石をベースに柱を作る。台風に強くなれるように風魔石で風耐性がある壁を。
雷対策に避雷魔石。地震対策に地魔石。火災対策に火魔石。それらを薄い板状にして屋根や壁の素材にしていく。通気性なんかはグラシオさんと相談しながら進めた。
難民の人達には家が完成するまでは窮屈だけど、それぞれ集落の人の家のお世話になってもらっている。
家々が完成に近づくにつれて、皆の期待が膨らんでいた。
「こんなに立派な家に住んでいいのか?」
「町に住んでいた時の家より大きいな……」
確かに難民の人達が言う通り、元々集落にあった家より立派になりつつある。
僕達の家も気が向いたら少しずつ改装しようかな?なんて思いつつも家の基礎になる部分もしっかり作った上で日夜、魔石生成に励んだ。
一軒ずつ、家が完成してそれぞれの一家が駆け込んでいく姿を見ることができて僕も満足だった。あんなにはしゃいでくれるなら、本当にやり甲斐がある。
「キッチンに風呂……水回りが完備されてるのはすごい!」
「前の家だと井戸からいちいち汲んでくるのが面倒だったんだよ……」
この集落、前までは川から水を汲んできていたんだっけ。
あの川は魔物が出るから、僕達が来る前には事故も起こっていたらしい。
できたばかりの家の中を見て回っているとセレイナさんがやってきた。
「家の作りもしっかりしてるわね」
「セレイナさん。いつの間に……」
セレイナさんが壁を指でコンコンしている。そりゃグラシオさんと僕、ユウラ達の努力の結晶だからね。
* * *
家が一通りできたから次は児童施設だ。
建物の間取りなんかを決めてもらって、家と同じ要領で建設していく。
広く土地を確保しなきゃいけないから一度、集落の壁を溶かすようにして消す。
僕が作った硬魔石の壁だから思いのままだ。それから木々を伐採して土地を確保した。
児童施設についてはよくわからないから、グラシオさんの他にセレイナさんも立ち会っていた。
「お昼寝する部屋、遊ぶ部屋、水飲み場にー……。なんか面倒ね」
「そういうこと言うのやめてもらえます?」
面倒なんかじゃないよ。むしろ楽しい。さすがのグラシオさんも呆れ顔だ。
「リオ君。遊具はあの辺でいいよな?」
「はい。僕は今のうちに魔石を作っておきます」
グラシオさんと相談しながら、遊具なんかの製作を進めた。
普通の遊具じゃない。魔石を組み込んだ遊具だ。一つは風魔石で【浮力】を付与した無重力の部屋。
もう一つは水魔石を使った水の滑り台。その名もウォータースライダーだ。
実はこれ、僕とグラシオさんとセレイナさんしか知らない。できてから驚かせてあげたかったからだ。
「ねぇねぇ。遊具ができたら当然だけどテストしなきゃいけないじゃない?」
「セレイナさんにやってもらいますよ」
「あら、わかってるじゃない」
「怪我しても問題なさそうな人ですからね」
「リオ君、なんか私に辛辣じゃない?」
まぁこの人だからいいかなって思ってる。
それにしても遊具を先に使いたいだなんて、セレイナさんも子どもっぽいところあるな。
でもそう言うからには協力してもらう。何より監督であり大工でもあるグラシオさんが積極的に手伝わせた。
必要なのは建物だけじゃなく、お昼寝の時に使う毛布なんかも作らないといけない。
僕に着せる女の子の服を作っていたセレイナさんだ。そんなものくらいお手軽に作れるはず。
セレイナさんは余裕たっぷりでグラシオさんからの注文依頼を引き受けた。
「なーんだ。そんなの朝飯前」
「あー、それとカーテンも頼む。全室合わせて今は大体六十、それと毛布を三十。絨毯なんかもいるから後で規格を伝える」
「……大仕事じゃない?」
「当たり前だろ。こっちだって本気で取り組んでるんだからな」
さぼる気だったセレイナさんの表情がひくついている。
初めて見るその顔に僕は少しだけスカッとした。うん。たまには大変な思いをしたほうがいいよ。
「リオくーん!」
「泣きついてもダメですよ。さぁ働いてください」
「働いたら負けかなと思ってる」
「勝ってください。さぁ」
セレイナさんはがっくりと項垂れながら、作業場に向かった。
集落の女性陣達がよく使っている綿織物の機械があるところだ。
なんで僕が年上の女の人にここまでしないといけないんだろう。こっちも大変なんだからね。
あの人に比べたらユウラはすごく真面目に取り組んでくれてありがたい。
今日も呼ばれてさっそくグラシオさん指示の下、建設を手伝うことになっていた。
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