第24話 難民さん、いらっしゃい

 魔術師の名前はザウレン。

 あんなことを言ってたけど、元々は貴族に雇われていたみたいだ。

 だけど後から雇われた魔術師達に地位を脅かされて解雇されたらしい。

 適性が【中】なのに解雇されるのが僕には信じられない。

 これは僕の予想だけど、魔術師が増えすぎて求められる実力が上がっているせいかもしれない。

 だって宮廷魔術師団への入団資格の一つが適性が【中】以上だから。

 大半が【下】で【中】が珍しく、【上】なんて引く手も数多。【極】となると国に数人いるかどうかのレベルだ。


「この野郎どもは近くの町にいって引き渡してくる。リオ、悪いが付き合ってくれねぇか?」

「わかりました。ザウレンの手錠や足かせも解かないといけませんからね」

「なぁ、前から思ってたんだけどよ。そういうのできるのか?」

「はい。僕が作り出した魔石なら加工できます」


 ドルファーさんが口を開けたままだ。そうじゃなかったら戦いで使い終わった後の魔石製武器を処理できない。

 ドルファーさんと僕が盗賊引き渡し。

 ユウラとハーデルさん達で難民達を集落に招待することにした。それはいいんだけどやっぱり難民の人達にジロジロと見られている気がする。


「あの女の子、すごい魔法を使うなぁ」

「あんなの見たことないぞ? どの属性なんだ?」

「地属性に似てるな。何にせよ、かわいい見た目にはそぐわない強さだよ」


 かわいいとか言われてる! 今すぐ脱ぎ捨ててやる!


「リ、リオ! 落ち着け! こんなところで脱ぐな!」

「ドルファーさん! 止めないでください! 僕はやります!」

「ユウラが見てるぞ!」

「あっ」


 ジーっと音が聞こえてきそうなほど見られていた。いや、別にユウラだけに見られるのが嫌ってわけじゃ。


「リオ」

「はい」

「なでなで」

「うん……」


 普通に撫でられた。なんかもうユウラが喜んでるならいいかな。

 いや、なんかこれはこれで危険な気がするけど。

 僕が気を落ち着けていると、ドルファーさんが難民の人達と話し込んでいた。

 そしてその話をまとめてくれたところによると、やっぱり町の税金が原因らしい。

 新しい町長になってから、税率が異常に上がったそうだ。

 しかも癒着や横領の疑いまであって、気に入られた魔術師なんかはかなり好待遇を受けている。

 優秀な魔術師の力は絶大で、その人達を囲えば甘い汁がすすれるから悪事に手を染める人も珍しくないとか。

 聞けば聞くほどひどい。改めてわかったけど、ロシュフォール家みたいなのはほんの一部でしかなかったんだ。

 難民の人達はこのまま国境を越える予定だったみたいだけど、ドルファーさんが言うには通してくれない可能性が高い。

 ドルファーさんの話を聞いて、難民の人達がガッカリしていた。


「隣国も大して違いはねぇぞ。どこへ行っても魔術師様なんだからな」

「じゃあ、どうしろって言うんだ……」


 難民の人達を見ると、小さな子どもが多い。大人の人達も元気そうなのに、それでも住めなくなる町か。

 何より僕よりも小さい子どもが満足に生活できないのは見過ごせなかった。


「あの、僕達の集落に来ませんか? 小さいところですけど皆で協力し合って、これからもっと住みやすくしたいんです」

「集落……? この辺りにそんなものがあったか?」

「昔、魔石発掘の鉱山資源で栄えた町ですけど今は小さい集落です」

「あ! もしかしてイムルタか! 昔、じいさんが働いてたって言ってた! まだあるのか!?」


 イムルタを知っている人がいてくれたおかげで、説明の手間が省けた。そこへ更にドルファーさんが補足してくれる。


「最初は寂れた集落だったけどな。リオのボウズのおかげで皆、生活を楽しんでいる。俺達みたいに魔法が使えなくてもな」

「あんた達も難民か?」

「そうだ。魔術が使えないってだけでお払い箱になったロートルさ」

「そうだったのか……」


 難民の人達が黙った。そこへ子ども達が僕のところへやってくる。


「おねーちゃん! つよいね!」

「お、おねーちゃんじゃないからね?」

「おねーちゃん、魔法ってどうやって使うの?」

「だからおねーちゃんじゃ……」


 まとわりつかれて、せまがれている。困ったな。完全に女の子だと思われているよ。すぐに脱ぎたいのに。


「ハハハッ! 子ども達もボウズになついちまったな! 保護者の方々、俺からもお願いする。あんた達の力が必要なんだ」

「俺達の力が……?」

「集落にはまだまだ足りないものが多い。人の力が必要なんだよ」

「……ううん。確かにこのまま国境まで行って追い返されるのもな。わかった、行ってみるよ」


 一人を皮切りに、難民の人達が次々と集落に来てくれると言ってくれた。難民の中には料理人や大工さんがいて、優秀な人達が多い。

 これだけの人数となると壁を加工して作り直さないといけないかも。まずは集落を拡張して土地を確保しよう。

 その調子で土地を広くしていけば、集落じゃなくて村と呼べる場所になる。イムルタの集落じゃなくてイムルタの村だ。


「ところでイムルタでは魔石発掘はもうやってないのかい?」

「魔石は僕が作ります」

「あ、君の魔術ってそういう……。すごいな。でもそんなの聞いたことないぞ。属性は? 適性は?」

「そういうのはないんで……」


 中には魔術師になりたくて勉強していた人もいたみたいで、すごく質問された。

 その人によるとやっぱり魔石術なんてものは前例がないみたい。

 悲観したこともあったけど、この魔石術は多くの人達を助けられる。今はそう自信を持って言えた。


                * * *


 近くの町で盗賊達を衛兵魔術師に引き渡すことに決めた。

 もちろんその前に着替えは済ませてあるから、女の子だと思われることはない。

 僕とドルファーさんで盗賊達を連れて、難民の人達は副隊長のハーデルさんと他の隊員に任せたから安心だ。

 町の門の前で衛兵魔術師にぎょっとした顔をされて事情を説明した。


「こ、これをあなた達が? そっちの子はまだ子どもじゃないですか……」

「ハッハッハッ! こいつはすげぇ魔術師なんですよ! な?」

「す、すげぇかどうかはわかりませんけど……」


 ドルファーさんに背中をバンバン叩かれる。衛兵魔術師によれば、この盗賊達は目の上のたんこぶだったらしい。

 はぐれ魔術師が盗賊を率いているケースが増えたせいで、周辺の治安維持が難しいと話してくれた。

 それから町の中に通された後、衛兵の詰め所に案内してもらいながら話す。


「このザウレンは雷の魔術を使うことで厄介だったんですよ。しかも適性が【中】です。この町には相性がいい魔術師が少なくてね……」

「雷属性はシンプルに速くて強いですからね」

「チッ、よく言うぜ……」


 僕達の会話にザウレンは舌打ちをした。僕みたいな子どもに負けて、プライドはボロボロなんだと思う。

 あれだけ粋がっていたのに今はほとんど喋らないからね。

 衛兵魔術師が詰め所に到着すると、中にいる仲間を呼んでくれる。


「ここが詰め所です。おぉい!」

「なんだ?」

「こちら、ドルファーさんとリオ君といってな。なんとザウレン率いる盗賊団をこうして捕えてくれた」

「なんだって!? そりゃ大変だ! えらいこっちゃ!」


 衛兵魔術師達が詰め所から出てくると、急いでザウレン達を奥へ連れていく。

 罪人はこの町で裁かれた後、罪に応じて処遇が決まる。

 一般的に盗賊の類は無期限の鉱山労働で、ほとんど出てこられない。更に殺人も加われば死刑に相当する。

 やってから後悔しても遅い。今まで犠牲にしてきた人達の分まで苦しみながら生きていけばいい。

 ザウレンの後ろ姿を見ながら、もう二度と会うこともないんだろうなと思った。

 それから一通りの仕事が終わった衛兵魔術師の一人がやってきて、僕達に頭を下げる。


「ドルファーさん、それにリオ君といったか。この度はご協力、感謝する」

「だとよ、リオ」

「また僕ですか!?」

「ボスのザウレンを圧倒したのはお前だろ? 素直に喜べって!」


 ドルファーさんにまた背中を叩かれて僕こそ頭を下げた。

 褒められて感謝されるのはどうも慣れない。だけど悪い気はしない。

 それどころか、なんだか気持ちがフワフワするような。それでいて心が花開いたような気分になった。


「あ、ありがと、ござい、ます……」

「君の歳でザウレンを圧倒するとはな。魔術属性と適性を教えてもらえるか?」

「え、それは、ちょっと……」

「まぁ言いたくないなら無理には聞かんよ。衛兵隊長が不在なのが惜しいなぁ。いたらきっと大喜びだろうに……」


 遠征している衛兵隊長はこの町の町長と仲がいいらしい。

 ティニーがいた町の町長とは大違いで、このディセルンの町の町長は人格者で知られていると話してくれた。

 今日は不在だけど僕達の名前は覚えてくれるみたいだから十分だ。

 というわけで、こうして僕達は安心してイムルタの集落に帰ることができた。

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