第23話 お嬢ちゃんじゃない
ドルファーさん達の動きは迅速かつ的確だった。
まずはここにくるまでに集めた盗賊被害の情報を洗い出す。そこから点と点を繋いで、盗賊が現れそうな場所を徹底して割り出していた。
警備隊時代は守るだけじゃなくて、積極的に攻めて事前に脅威を取り除いていたというのだからすごい。
ただしドルファーさん達が相手にしていたのは魔術を使わない盗賊だ。今回は魔術師がいる可能性があるから僕とユウラが前線に立つことになった。
魔物以外と戦うなんて、僕にできるかどうか。今、僕達はドルファーさんが目をつけた街道を歩いている。
「ドルファーさん。なんでここに盗賊が現れるってわかるんですか?」
「集落に来る前に聞いたんだが、アイグスの町ってところから逃げ出す連中が多いらしい。なんでも町長がとんでもねぇ税金を課してるとかでな」
「アイグス……。ティニー一家がいた町だ」
「かなり難民が出てるらしいじゃねえか。盗賊なら絶対にそこを狙う」
アイグスの町から離れた街道で僕達は待機していた。
大きな治療院ができるくらいの町だけど、どうも町長が問題みたいだ。町から離れたのはティニー一家だけじゃなかった。
事情はわかった。わかったんだけど、どうしても納得できないことがある。
「……それでなんで僕が女の子の格好を?」
「そ、それはセレイナのねーちゃんの提案だからな。悪党をおびき寄せるには女のほうが都合がいいとかなんとか……」
「絶対あの人の趣味ですよね?」
「オ、オレ達もみすぼらしいおっさん連中に変装してるんだ! こうでもしねぇと盗賊どもは寄ってこねぇ!」
確かに全員、変装している。それでいて武器は荷台に隠しているから難民にしか見えないと思う。
僕のこの大きなリボンに足全体がスースーするスカート。
いつの間にこんなものを作ったのかという疑問があるし、恥ずかしくて逃げ出したい。
何よりユウラの前でこんな格好は耐えられなかった。
「リオ」
「な、なに?」
「かわいい」
「……そう」
素直にお礼を言えない僕がいた。当のセレイナさんは集落の守りも必要だとかもっともらしい理由で今、ここにはいない。
「まぁまぁ、何もなければそれはそれで……いや、リオ。当たりだぜ」
「前に誰かいますね」
街道の先にたくさんの人影が立っていた。
近づくにつれてそれがローブを羽織った魔術師が一人、残りが武装した男達だとわかる。
そしてその後ろには明らかに難民と思われる人達。僕達より先に歩いていた難民がすでに捕まっていたのか。
武器を持った盗賊の一人が前に出て、両手を広げて通せんぼのポーズをとった。
「かわいそうな難民諸君。ここを通るともれなく俺達がついてきまーす」
「ひぃぃ! おたすけぇーーー!」
ドルファーさんの演技がひどすぎる。あれならやらないほうがいい。
でも盗賊は真に受けたみたいで、ニヤニヤと笑っている。
「おやおや? 俺達が誰なのかわかっちゃった? だったら話が早い。大人しく……」
「おりゃあぁぁーーー!」
「ギャアアァッ!」
ドルファーさんが有無を言わさず、荷台から武器を取り出して盗賊の一人を倒した。
それやるなら今の演技はなんだったの?
「こ、こいつ!」
「やっちまぇぇーーー!」
ドルファーさん達と武装した盗賊達が激突した。
盗賊も武器で応戦するけど、ドルファーさん達に手も足も出せずに斬り倒されていく。
しかも向こうは二十人以上いるのにドルファーさん達はたった四人だ。
僕が作った武器を振るえば、風属性の追加攻撃で数人は倒せる。結果、一分もしないうちにドルファーさん達が圧勝した。
その様子を見ていた魔術師がため息を吐いて、倒れた盗賊の一人に手の平を向けた。
「ボ、ボス……。助け……」
「やかましい」
「ガァァァーーー!」
ボスと呼ばれた魔術師が雷の魔術を倒れている手下に放って殺してしまった。焦げ臭い嫌な臭いだけが残る。
「やれやれ……。やっぱり魔術も使えない連中は使い捨てにしかならないな」
「てめぇが親玉か?」
「ドルファーさん、下がって」
なぜか僕の体が勝手に動いてしまった。この気持ちはなんだろう?
「ずいぶんとかわいらしいのがいるな? 勇敢なお嬢ちゃんだが、怖いものを知らないと見える」
「お、お嬢……。お前も魔術師だよね? なんでこんなことしてるの?」
「魔術師だから、だよ」
「魔術師ならもっと他にやれることがあるはずだよ」
「はぁ? 馬鹿かよ! 俺はこんなことがしたくて魔術を習得したんだ! 見ろよ! あの魔術も使えない奴らを……哀れなもんだろ!」
捕まっている難民達が怯えた目でこっちを見ていた。
助けてほしそうにも見えるし、逃げてほしいと目で訴えてるようにも見える。
「知ってるか? 弱いものいじめって最高に気持ちいいんだぜ? しかも雷ってのは全属性の中でも最強だ! こんな風にな!」
「わっ……!」
僕の足元に魔術師が雷を少しだけ放つ。地面が焦げて、その脅威を見せつけた。
「速すぎて見えないだろ? 雷ってのは光と同じなんだよ。これほどの殺傷力を持つ属性などない。そこを理解できないアホはそもそも同じ次元に生きてちゃいけねー。わかるか?」
魔術師が片手に雷をまとわせて、いつでも撃てるところを見せつけていた。
さすがのドルファーさん達も生唾を飲んで、魔道士の雷に視線が釘付けだ。そしてユウラが構えたけど僕が片手で制する。
「すごいですね。僕にはそんな才能ないです」
「僕?」
「でも才能なんかなくても人の役に立てますよ。そして誰かが認めてくれます」
「メスガキがナマイキ言ってくれるじゃないか」
「認められなかった僕の力であなたを倒します」
大切なのは誰に必要とされるか。ただそれだけだ。今ならハッキリ言える。僕はこいつみたいにはなりたくない、と。
「魔石生成……!」
「もったいないけど、お前から死んでもらおっかなぁぁーー! 君がムカつかせちゃったからねぇ! サンダースピアッ!」
目にも止まらない雷が僕に直撃した。でもそれだけだった。
「は……? な、なんで、なんだ、それ……」
「雷魔石。完全な雷耐性がある魔石だよ。それを鎧として生成しただけ」
「いつの間に、そんなもん!」
重くて動けないけど今はこれで十分だ。魔術師は頭をかきむしって、顔が真っ赤になっていた。
「わ、わけの、わかんねぇ魔術を使いやがってェェ! だったらこれならどうだッ! トール……ハンマーッ!」
魔術師の特大な雷の魔術は僕に命中すらしなかった。
離れた場所に生成したその魔石に雷はすべて命中しているから。
「あ、れ?」
「避雷魔石。昔、雷から家々を守るために使われていたらしいけど、今はすっかり採れなくなった魔石だよ。これでもう雷の魔術は意味ない」
「そ、そんな、バ、バカげたことが、あるか……。そんな、もの、聞いたことないっ!」
「たくさん勉強しましたから」
【避雷石】【雷属性吸収】の効果は伊達じゃない。そう、勉強すれば誰かの役に立てるし強くなれる。
そう自信をつけられたのはユウラや集落の人達のおかげだ。
「覚悟はいい?」
「ま、ま、待て! お嬢ちゃん! 降参する!」
「お嬢ちゃんじゃないッ! 生成! 重魔石!」
「うがあぁぁ! お、重いィィ!」
重魔石で作られた手錠と足かせを魔道士に生成すると、地面に倒れ込んだ。
重魔石はとても重い。それで手錠や足かせなんて作られたら身動きが取れなくなるのは当然だった。
「ドルファーさん。この盗賊達、どうしましょう?」
「え? お、おー……そうだなぁ」
ドルファーさんの歯切れが悪い。こういう後始末はドルファーさん達に任せるつもりだ。
気がつくとドルファーさん達だけじゃなく、誰もが一言も喋ってなかった。
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