第20話 その難民、おじさん達
ついにティニー達の診療所と家が完成した。
ティニー一家はここまでやってくれると思ってなかったらしく、完成した建物の前で膝をついている。わなわなと震えて、建物を見上げていた。
「こんな……ここまでしていただけるなんて……」
「あの……ティニーのお父さん。お願いがあるんです」
「何かね、リオ君。なんなりと言ってくれ」
「僕達、お金は払えないけど食べ物とかなら提供できるんです。だから……その。ずっとこの集落にいてくれませんか?」
「何を改まってそんなことを……」
さすがに断られるかな?
この診療所だってあくまで一時的なものだと思っていけど、少しでも働きやすいようにしてあげたかった。
「そんなこと……こちらからお願いしたいくらいだ」
「本当ですか! 長さん、ここにいてくれるみたいですよ! 皆、よかったね!」
長のおじいさんも安心して、改めてティニーのお父さんであるバルゴさんと握手をした。
僕とティニーも抱き合って喜びを分かち合う。このままいつかお別れだなんて嫌だからね。
そして【上】の治癒師達がいてくれるんだから、よりこの集落をいいところにしていかないといけない。
そのためにはまず集落の人達の安全を確保することだ。集落の周囲は塀で囲っているけど一歩、外に出たら魔物がいることには変わりない。
魔物の討伐も優先したいけど前にティニーと相談した通り、武器や防具を皆に作ってあげることにした。
だけどここで一つ問題がある。僕は自分の身体に合った武器は作れるけど、他の人達となると自信ない。
セレイナさんに相談しても――。
「さすがにねぇ。武器や防具での戦いを教えられる人なんて今の世の中、早々いないわよ」
「ですよね……」
そんなこんなで数日くらい考えたけど結局、答えは出なかった。
家でぼんやりと考えて、ユウラがなぜか肩を揉んでくれた時だ。これがなかなか気持ちよくて、じゃなくて。
「リオ君。またお客さんよ」
「セレイナさん。今日は何を作れば……お客さん?」
またセレイナさんの意味不明な素材作成要求かと思った。
外へ出てみれば、今度はいかついおじさん達だ。剣や槍、それに身に着けているのはもしかして鎧かな? 珍しい恰好をしている。
「おぉ、まさかこんなところに集落があったとはな! 助かったぜ!」
「おじさん達は?」
「なんだ、ボウズ。ここの子どもか?」
「まぁ集落の子どもというか……」
とにかくまた長に来てもらって話を聞いた。おじさん達は遠くの田舎町で自警団をやっていたらしい。
魔術全盛期とはいっても、王都から離れるほど魔術師の数が足りなくなってくる。
特に田舎だと国は何もしてくれないから、自分達の身は自分達で守るしかない。
魔術が使えない中、おじさん達は自分達なりに武装して町を守っていたらしいんだけど――。
「あのクソ田舎に突然、魔術師連中がやってきてよ! 国が派遣したらしいんだが、とにかくそいつらがいるから俺達は用済みってわけよ!」
「魔術が使えない奴に用はねぇだと! 今まで誰が町を守ってきたと思ってやがる!」
「そうだ! そうだ!」
落ち着いてほしいけど興奮がすごい。剣や槍も自前で用意したらしくて、長いこと使い続けているから刃こぼれがひどくてボロボロだ。
当たり前か。もうほとんど誰もそういう武器を使ってない。だから直せる人もいなかった。
「行く先々で求職みてぇなことしたけどよ。どこも俺達みたいな魔術が使えない奴はいらねぇってよ」
「そ、それで普通の職を探すとかは……」
「あぁん!? 腕一本で戦ってきた俺達がかぁ!」
「なんでもないです……」
まだ興奮がすごい。おじさん達の愚痴大会が始まって、収まるまで待つしかなかった。
ようやく落ち着いたところでおじさん達が頭を下げる。
「すまねぇな。つい当たり散らしちまってよ」
「いえいえ、お気持ちはわからないでもないです。僕もいらないと言われてここに着きましたから……」
「お前みたいなボウズもか!? そりゃひでぇな!」
「あの、行く当てがないんですよね? それならお願いがあります」
こんなに気が強いおじさん達だ。そんなもん俺達がやってられるかよとか怒られるかと思ったけど――。
「そういうことなら任せておけ!」
「あぁ! 魔術師様が持ち上げられちゃいるが、俺達だってまだまだやれるんだぜ!」
「ボウズ! 長のじいさん! 俺達に任せとけ! なぁ皆! やるぞ! やるぞぉぉぉーーー!」
「オオォォォーーーーー!」
おじさん達の熱がすごい。全員が円陣を組んで大声を上げている。
すごいなぁ。今まで出会ったことがないタイプの人達だ。まだまだ世の中は広くて勉強になる。
ひとまず熱が収まったところで自己紹介をしてもらった。
まず警備隊のリーダーのドルファーさん。槍の扱いなら誰にも負けないということで、この中では一番強いらしい。
他は副隊長のハーデルさんに続いてダレットさん、ポールフさん。
全員、魔術が使えないけど近接戦闘なら誰にも負けないと豪語している。
さっそく明日から武器や防具の作成に取り組むことにした。だけど一つ気がかりなことがある。あのセレイナさんのことだ。
「おじさん達、もうすぐ楽しみが増えるわよ」
「あんたみたいな綺麗なねえちゃんがいるだけで楽しいんだけどな?」
「うふふ……楽しすぎてぶっ飛んじゃうわよ?」
なになに、と僕が首を突っ込んでも何でもないわよとあしらわれる。変なことしないといいけどな。
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