第19話 薬草畑の価値
ティニー一家の家は三人家族住みということで、建てるのに少し時間がかかる。
魔石で建築素材を必要な分、作った後はユウラや町の大人達が建築作業をやってくれていた。
僕はというと最近、働き過ぎだから休みなさいと言われている。
確かにここ最近、ずっと魔石を生成してばかりだ。でも働きすぎという感覚はないし、ロシュフォール家にいた時より充実している。
だってやらされているんじゃなくて、自分で始めて誰かの役に立っているんだもの。だから建築素材だけでも、とお願いした後は休ませてもらっていた。
そして今日はティニーと一緒に薬草の草原に来ている。
「うわぁ! こんなに薬草があるのか! リオ君がこれを見つけたのか!?」
「僕とユウラ、セレイナさんの三人で見つけたんだよ」
「お前、強いんだな……。お! ブルーハーブまであるじゃん! これ、魔力回復できるマナポーションに使えるんだぜ!」
「へぇ、知らなかったなぁ」
ロシュフォール家にいた時はそんなもの貰えなかったのを思い出した。
思えば怪我をしている僕の横で、フレオール兄さんが訓練の後にガブ飲みしていた飲み物はそれだったかもしれない。
薄い青色で少しおいしそうな色をしているし、飲みたくなってきた。
「お前、魔術師なのに知らないのか? ウソだろ? じゃあどうやって魔力を回復していたんだ?」
「食べて寝て回復していたよ」
「そ、それで確かに回復するけど……。マジかぁ」
「そんなにおかしいの?」
「魔術師なのに一度も飲んだことがないっていうのが珍しくてさ」
ティニーの話では、僕の魔石術使用の頻度を考えてもマナポーションでの回復は必須らしい。
確かに家の建築素材どころか道に敷き詰めるブロックなんかも作ったし、魔物も討伐してる。
ロシュフォール家でこき使われていた時も、なんとかなっていた。今までは何とも思わなかったけど、実は異常なことみたいだ。
「そっかぁ。まったく知らなかった」
「俺の勘だけど、リオ君はたぶん魔力量も回復量も桁違いだ。俺、診療所でよく父ちゃんの手伝いをしていた時にいろんな魔術師を見たからさ。なんとなくわかるんだ」
「それこそすごいよ。僕はなんとなくしかわからないな」
「魔力感知? ていうらしいんだけどさ。それがどうも俺、優れてるらしいんだよな。でもリオ君だって訓練すれば魔力感知できるようになると思うぜ」
ロシュフォール家じゃ当然のように教えてもらえなかったことだ。
魔力感知の訓練か。今度、セレイナさんに頼めば特訓してくれないかな?
「それにしてもこの薬草畑、宝の山だな。なぁ、ここにある薬草って摘んでいいのか?」
「いいと思うよ」
「サンキュ! じゃあ解毒効果があるグリーンハーブと腸内環境を整えるイエローハーブ……。あれもこれもあれもこれも」
「そこまでわかるんだ……」
確かに薬草だけあっても知識がない僕達じゃ活かせない。そういう意味ではティニー一家にはこっちが感謝すべきだ。
これを機会に僕もティニーから色々と教えてもらおうと考えた。薬草の草原で教えてもらうこと一時間。
「じゃあ、問題。グリーンハーブには解毒効果があるけど、気をつけなきゃいけないことは?」
「えーっと……。成分の刺激が強いから、免疫力が低下した老人や未熟な子どもは摂取量に気を使うことだっけ?」
「そうそう! なかなか覚えがいいな!」
こんな感じでの問答が楽しかった。
ユウラは女の子だし、同じ歳の男の子と遊んだのは初めてだ。対等に話してくれるというだけで嬉しくてたまらなかった。
ティニーはお父さんの手伝いをしているおかげで、薬や治癒魔術の知識が豊富だ。
治癒魔術の適性はお父さんと同じでなんと【上】、それなのになんで大切にされないの?
「やっぱりさー。でかい治療院だと治癒師の数も多いし、医療器具や仕入れられる薬なんかも豊富ってのもあるけどさ。何よりあそこの町の町長がやたら贔屓してるんだよ」
「贔屓?」
「そう。かなり資金援助してるみたいでさ。もう俺らみたいな小さい診療所はお払い箱ってわけ。それに大々的に宣伝されたらもう誰もうちになんかこない」
「そんな……ひどい」
役に立たない、用がないからいらない。あまり思い出したくないな。
でも僕は密かに考えていた。こんな風に追い出される人達はきっとたくさんいる。
そういう人達がどうなるかと言うのはセレイナさんが教えてくれた。
野垂れ死ぬか、はたまた盗賊になり果てるか。次の居場所を見つけられなかったら終わりだ。
国外に脱出しようにも、国によっては奴隷制度なんてのもある。奴隷商人に捕まったら終わりだとか聞いた辺りで、もういいやと話を遮った。
「さ、そろそろ帰らないと心配させちまうな」
「そうだね。薬草も摘んだし帰ろうか」
たくさんの薬草を摘んだ後、僕達は薬草の草原を出た。扉もしっかりと閉めて。
* * *
「この道もリオ君が作ったんだろ?」
「うん。それとリオ君じゃなくてリオでいいよ。僕もティニーって呼びたいからさ」
「わかった! リオ!」
森に覆われていた時は薬草の草原まで二時間以上かかった。歩きやすくなった道のおかげで、今は徒歩で30分もあれば着く。
同じくウラカカの果樹園まで50分。湖まで一時間半。いい環境になってきたなぁ。これも皆のおかげだ。ん? あれは!
「危ないっ!」
道の脇にある林からハンターウルフが飛び出してくる。
ティニーを庇いながら、僕は剣でハンターウルフを斬りつけた。
「リ、リオ!」
「大丈夫!」
ハンターウルフが怪我をしながらも、唸りながら逃げの姿勢を見せない。
ユウラがティニー達を助けた時は逃げたのに、かなり好戦的な個体だ。
剣術を学んでいなかったら今のはティニーを助けられなかったな。
一撃を浴びせて怪我をさせているとはいえ、このまま真正面から戦うのはリスクがあるかもしれない。だったらこれしかないな。
「魔石生成……スピアッ!」
「ギャゥッ!」
ハンターウルフの真下から飛び出した突魔石製の槍が貫く。ようやくハンターウルフが動かなくなってくれた。
「はぁー、ビックリしたぁ。道を整備してもやっぱりここはまだ危険地帯か」
「リオ、助けてくれてありがとな。怪我は……してないみたいだな」
「ありがと。たぶん問題ないと思うよ」
真っ先に怪我の心配をしてくれて嬉しい。治癒師としても人としても、ティニーはいい奴だ。
「それにしても、俺達も助けられてばっかりじゃな。なにか武器があればなぁ」
「武器か……」
ティニーに戦わせたくはないけど、身を守る武器の一つくらいあってもいいかもしれない。
いや、武器だけじゃなくて防具も必要だ。集落に帰ったら皆と相談してみよう。
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