第18話 やってきた治癒師一家

「リオくーん! 次はこういう素材を作ってほしいのっ!」

「……またですか?」


 道が出来て一安心していたところでここ最近、セレイナさんから妙な注文がくる。

 今日は円柱の断魔石、しかもかなり大きい。その前は細長いパイプみたいなもの。何に使うのか聞いても教えてくれない。

 一度、跡をつけてみたけど途中でまかれてしまった。急に目の前が真っ暗になったと思ったら、もうそこにいないんだもん。

 たぶん闇魔術の類だと思うけど、本当にマイペースというかなんというか。

 滅多なことはしないと信じているから、最近は追及するのをやめた。今日は久しぶりに家でのんびりしているんだけど、またセレイナさんがやってくる。


「リオ君!」

「セレイナさん、次は何を作ればいいんですか?」

「そうじゃなくて! 集落の人が魔物に襲われてる人を発見したって!」

「えぇぇーっ!」


 急いで家を出て、集落の門を抜けると確かに遠目に魔物と人間を確認できる。

 駆けつけると襲われているのは三人。おじさんとおばさん、そして一人は僕と同じくらいの年の男の子だ。

 この人達を囲んでいるハンターウルフの群れに向けて、地面から突魔石製の槍を射出した。


「ギャウッ!」

「ギュアッ!」

「グルッ!」


 奇襲で数匹仕留めた後はユウラが突撃してあっという間に蹴散らす。

 逃げの姿勢を見せた残りの一匹すら逃がさないのはすごい。


「ひゅうっ! リオ君とユウラちゃん、やるわね。お姉さん、まったく手出しできなかったわ」

「人が助かったんですから気にしなくていいですよ、セレイナさん。それより……」


 僕達が助けたのはよく見るとたぶん家族かもしれない。おじさんとおばさんが深々と頭を下げてきた。


「妻と息子共々、助けていただいてありがとうございます。このような場所で命が助かるとは思いませんでした」

「あなた達はいったい?」

「申し遅れました。私、アイグスの町で治癒師をやっていたバルゴと申します。こちらは妻のジョアン、そして息子のティニーです」

「やっぱり家族ですか……」


 三人はそれぞれボロボロのマントを羽織っている。荷物もあまりないし、魔物に襲われていたところを見ると余裕がある旅でもなさそう。

 それに治癒師といえば魔道士の中でも重宝される存在だ。回復魔術はあまり適性がある人がいないからね。

 だからそんな治癒師がここまで追いつめられるような旅をしているのが気になった。


                * * *


 ひとまず僕の家で話を聞くことにした。

 一家はアイグスの町で小さな診療所を営んでいたけどある日、大きな治療院ができてしまう。そのせいでついには畳まざるを得なくなったらしい。

 稼ぎがなくなって新天地を求めて町を出たものの、魔物だけはどうしようもない。

 護衛の魔術師を雇う費用なんかなくて、襲われたところを僕達が助けた。一通り話し終えた後、おじさんが深くため息をつく。


「なんとも情けない話です。我々としては誠心誠意やらせてもらっていたのですが……。やはり設備が充実している大きな治療院のほうが安心できるのでしょうな」

「そ、そんなことないですよ。きちんと治療していただけるならありがたいはずです」

「そう言っていただけると少しは気が晴れます……。ところでこのような……いえ、すみません。この場所にまさか集落があるとは思いもしませんでしたよ」

「はい。皆の力で支え合ってなんとか生きています」


 僕は集落の長のおじいさんを呼んで、この家族を紹介した。事情を聞いたおじいさんは納得して、そして家族に同情してくれる。

 おじさんの話を聞いて何度も頷いて目に涙を浮かべた。苦労してきた人同士、通じ合えるものがあるのかもしれない。


「人を助ける治癒師に誰も手を差し伸べんとはの……。世知辛いものだ」

「ご理解いただきありがとうございます。聞けばそちらも苦労されているようで……」


 なんだか大人の話し合いの雰囲気だなぁ。なんかこう独特の雰囲気がある。


「それでこちらのリオ君達に助けていただいたお礼なのですが。その……。手持ちのお金があまりなくて……。ん? ティニー、どうした?」

「とーちゃん。この集落で仕事をするってのはどうだ?」

「そ、それは……」

「金がないならそれしかないだろ」


 ティニーの提案は願ったり叶ったりだ。だけどこの人達に渡すお金なんて僕達もない。

 いくら助けたとはいえ、それを押し付けるのも気が引ける。どうしよう。歓迎したいんだけどな。ティニーのお父さんが少し考えてから話し出す。


「お願いです。助けていただいたお礼に、こちらで治療をやらせていただけないでしょうか?」

「お、おじいさん。どうします?」

「なに、リオ君。堅苦しいことはなしにしましょうぞ。行く当てがないなら、こちらからお願いしたいところですな。ワシの家でよければ狭いですが、いかがか?」

「あ、ありがたい……!」


 おじさんが泣きながらおじいさんの手を握った。

 そうと決まればさっそくこの人達が暮らす家が必要だよね。頼まれなくてもやるぞ。

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