第12話 初めての剣でゴブリン戦
「大丈夫、僕はやれる……」
「リオはやれる」
今日はゴブリン討伐だ。そのために自己暗示をかけていたところで、ユウラから嬉しい支援をもらった。
なぜか耳元で囁かれて少しドキッとしたけど、なんだか力が湧いてくる。
「ゴ、ゴブリンなんて、ゴブリンなんて」
「ゴブリンなんてゴブリンなんて」
いや、そこは復唱しなくてもいいんだけど。
前にジャウールとコカトリスの素材を求めて山に入った時に僕達はゴブリンに襲われた。
その時はユウラのおかげで撃退できたけど、この近くにゴブリンが出たのは無視できない。そう遠くないところにゴブリン達の村があるはずだ。
集落全体を壁で囲ったものの、脅威が消えてなくなったわけじゃない。
ゴブリンはそれなりに知恵があるから、何かの手段で入ってくるかもしれなかった。だから今回はそんな脅威を取り除くために僕達はゴブリンの村を目指している。
「ゴブリンなんて、この剣の錆にしてやる! してやる……」
「ゴブリンなんて」
「いや、もう真似しなくていいから」
「しゅん」
言葉で落ち込んだことをアピールしなくても。
僕は刃魔石で作った剣を構えながら、慎重に進んでいる。
今日までユウラに特訓してもらったんだ。素振りや受けとか、基本的な動きはできるようになったと思う。模擬戦もすごく手加減してもらって最高記録は三秒。
とはいえ、ユウラは一切手を出さないという条件ですら僕のほうが息切れする。
だから初めての実戦でうまくいくか不安だった。
「見えた」
「ほ、本当にゴブリンの村が……」
木の塀で囲まれたゴブリンの集落を発見した。
入口には見張りのゴブリンが立っていて、意外としっかりしていた。ゴブリンみたいに素早い相手なら、いざ接近された時に戦えないと危ない。
まずはここから突魔石のスピアで見張りの一匹を貫く。
「ギャッ!」
「よし……!」
ゴブリンを串刺しにしてから、ユウラが木の塀を背にして立つ。これまでに色々と作戦を考えた。
僕の魔石術なら塀ごと壊して奇襲して打撃を与えられるけど、ゴブリンの数がわからない。
うっかり外に漏れたゴブリンを逃がしたら大変だ。だからここは塀を維持したまま突撃した。
「ギー!」
「ギャッギャッ!」
間髪入れずユウラが迫ってきたゴブリン二匹を瞬殺。
次々とゴブリン達がユウラに吸い込まれるように向かってくる。
武器を持っているゴブリンがいようと、ユウラの敵じゃなかった。
中には輪切りにされたゴブリンもいて、ユウラだけは怒らせないようにしようと誓う。
「ギャギャギャー!」
「こ、こっちにきた! クソッ!」
落ちつけ。戦いに大切なのは平常心、特訓の成果を活かせ!
「たぁぁー!」
「ギャギィーッ!」
剣を振ると、ゴブリンの胴体が斬れた。真っ二つとまではいかなくても致命傷だ。血を流したゴブリンが倒れて動かなくなる。
「や、やった! やったぁ!」
「油断」
すかさず僕に襲いかかったゴブリンをユウラが倒してくれた。油断するなということだ。ごめん。
「まだまだ数が多い! こ、今度は二匹!?」
「ギギーー!」
「ギャッギャッ!」
ゴブリン達は明らかに僕を狙っている。弱いほうを狙う知能はあるらしい。
だけど僕は剣術だけじゃない。向かってくるゴブリンに対して、地面から斜めに飛び出す刃魔石の剣山を生成した。
止まり切れず、ゴブリン達は剣山に突っ込む。
「ガ……ギャ……」
「ギッ……」
その隙に僕は周囲を剣山で囲った。
突撃してくるゴブリン達が引っかかって、後ろにいた個体は飛び越えてくる。それを待ってたんだ!
「てやぁぁッ!」
「ギャーーー!」
空中なら狙いやすい。
飛びかかってきたゴブリンに僕は剣を突き刺した。
これは先日、僕がユウラにかっこつけてジャンプ斬りをやった時の教訓が活かされている。
空中に固定された状態は危険で、僕はユウラに思いっきり蹴られたんだ。爪での攻撃だったら死んでた。
「どんなもんだ!」
「リオ、すごい」
あれ、初めてユウラに褒められた? 特訓の時なんか淡々としていたのに。
「あと一匹」
「あれは……」
最後に残っていたのは一際、体が大きいゴブリンだった。ゴブリンリーダー、その名の通り群れのボスだ。
ゴブリンという魔物は魔術社会以前は恐れられていたけど、今となっては魔術師達の練習台になっている。
だけどあの集落みたいに誰も守ってくれない人達にとってはそうじゃない。
もしあんなのが集落を襲ったら、一人残らず殺される。
「ギギァーーーー!」
「遅い」
ユウラがステップを踏むようにゴブリンリーダーの攻撃を回避する。
それからワルツのようにゴブリンリーダーの周囲を回ったと同時に終わった。切り刻まれたゴブリンリーダーが大きい体を倒す。
「終わり」
「す、すごい……」
ユウラの戦いは思わず見とれちゃう。それは舞台の踊りなんかと近いかもしれない。
僕は観たことがないけど、こんな感じで綺麗なんだろうな。
「リオもすごい」
「そう?」
「素質ある」
「ぼ、僕に? 剣の素質が?」
ユウラが頷いた。自分には向いてないと思ってたから驚く。
ユウラは良くも悪くもハッキリと言うから、これは本音だと思う。
「リオ、剣術もそこそこ」
「そ、そう、かな……」
ユウラのお世辞抜きの誉め言葉だとしたら、こんなにも心強いことはない。
剣をグッと握りしめて、よりやる気を出した。そこそこというのが少し引っかかるけど。
「ここ潰す」
「潰すの?」
「また寄ってくるから」
「あぁそうか」
それから僕達はゴブリンの集落を徹底して潰した。
塀や住処になっている家は木で作られているから、壊せば後は自然に溶け込む。
ユウラの話によれば、放っておくとまたどこからかゴブリン達がやってきて住処にするかもしれないからだ。
今日、集落への脅威を一つ取り除いたことで帰ったら皆から喜ばれた。
皆が少しでも安心して過ごせるよう、これを機会に周辺を探索してもいいかもしれない。
何かあれば資源にできるかもしれないし、魔物なら討伐しないと。
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