第11話 近接戦の訓練
「お、精が出るなぁ! 特訓かい?」
集落のおじさんが通りかかった時、ちょうど僕がバテたところだった。
昨日、僕はユウラに戦闘の特訓をお願いした。武器として使っているのは刃魔石で作った剣だ。
僕でも片手で持てるくらい軽くて、刃魔石で出来ている。剣術なんてさっぱりだし、この魔術社会だと忘れ去られた戦闘方法だった。
ユウラの戦い方を見て、僕は魔石術以外の可能性を探ろうと考えたのがきっかけだ。
先日のゴブリンが襲ってきた時に思ったけど、魔石術だと接近された時に対応できない。
だから少しでも戦闘能力の向上につながればいいかなと思ったんだけど――。
「リオ」
「うん、もう一回」
相変わらずユウラには歯が立たない。何度、尻餅をついたことか。急かされて立ち上がり、一戦やってみた。
「うわっ!」
「弱い」
ユウラが装着している爪で僕の剣なんて簡単に弾かれる。たった一振りでこれなんだから、そもそも模擬戦が成立していない。
これを朝から何戦もやって、僕の身体とメンタルはボロボロだ。体力もユウラは段違いで、息を切らしてない。
「リオ」
「う、うん……」
で、ユウラは僕に立つよう促して――。
「わわっ!」
「踏み込み。体の軸」
また同じパターンで剣が弾かれた。踏み込みが足りない。体の軸が安定していない。
ユウラはそう言いたいんだ。もう一回、立ち上がった僕に対してユウラが構えた。
「え、えっと。ユウラ、少しコツを教えてもらえると嬉しいな」
「コツ?」
「具体的にどう動けばいいのかみたいな……」
少し考えた後、ユウラは僕の腕を握って腰を押した。すると心なしか楽になった気がする。
ユウラは僕の構えを修正してくれたんだ。さすがだよ、ユウラ。次はどうすれば――。
「わぁっ!」
「隙だらけ」
剣が弾かれた勢いで僕は尻餅をついてしまった。正直に言ってかなり心にきている。
しかもユウラは強化魔法を一切使っていない。つまり対等な条件での戦いだ。
「も、う……一回……」
挫けない。これも自分のためだ。
* * *
「つ、ら、い……」
訓練開始から三日、僕は激痛に悩まされていた。腕や足が痛くて起き上がれない。
一体、僕は何の病気にかかったんだろう? 痛い痛い。本当にズキズキする。
「リオ」
「ごめん、ユウラ……。今日の訓練は休むよ」
「ごめん」
「え……」
ユウラが寝ている僕の近くにやってきて、腕や足を撫でた。なんだか楽になってきた気がする。
「筋肉痛」
「きんにくつー?」
「うん」
「筋肉、つう……。筋肉が痛いってことか」
解きほぐされているようで気持ちいい。寝ちゃいそうなくらいだ。
「おう、リオ君。今日は寝込んでいると聞いてやってきたぞい」
「あ、おじいさん……それに皆も……」
集落の人達が入ってきて、手に何か持っていた。籠に入ってるのは野菜だ。
前に僕が畑を拡張したから、お礼に持ってきてくれたのかな? それからおじいさんに筋肉痛のことを聞いた。
よく体を動かしていた昔とは違って、今の魔術社会じゃあまり聞かなくなったらしい。
肉体労働なんかも今は便利な魔道具なんかで出来ることが多いから、一部の人達にしか起こらないと教えてくれた。
「リオ君が知らないのも無理はない。ワシらが若い頃には当たり前だったんだがのう」
「今の若い連中は下手したらほとんど知らんだろうなぁ」
「俺達が鉱山で働いていた時は毎日のように筋肉痛になってたよ」
これが毎日って。今でもつらいのに、昔の人達はこんなのを我慢して仕事をしていたのか。
それだけ働いたのに今の集落は寂しい。なんだかやり場がない気持ちが生まれてしまった。
「リオ君はどうして訓練をする気になったんだ?」
「ユウラの戦いを見て、色々な戦い方を身につけないといざという時に対応できないと思ったんです」
「なるほど……。それは素晴らしい心がけだがな……」
おじいさんが少し言葉を詰まらせた。なんだろう?
「君が戦っているのも、元はといえばワシらが不甲斐ないせいじゃ。子どもの君に頼りっぱなしでいるわけにはいかん」
「そんな! 気にしないでください! 僕は好きでやってるんですから!」
「だからな、困った時は何でも言いなさい。ワシらにできることなら何でもやろう。な?」
おじいさんが他の人達に同意を求めると、全員が頷いた。僕は涙が少しだけ出る。
こんなにたくさんの人達に心配されて、必要とされたことなんてなかったから。
「あ、あり、ありが、と、ございま、す……」
「リオ君。君は立派だよ。魔術が使えるからといってそれに頼るだけではなく、可能性を探る。誰にでもできることではない」
「そう、かな……」
「あぁ。少なくとも昔、鉱山町だったここに来ていた魔術師の中には驕り高ぶった者が目立った。今もあまり変わらんだろう」
魔術師が増えたおかげで便利になった。
魔物も昔より楽に倒せるようになったけど、同時に人が変わってしまう。そんな話をしてくれた。
「僕の魔石術はバカにされてましたから……」
「辛い過去があったのだろう。だが断じて君の魔術は見下されるべきものではない。助けられたワシらが保障する」
「は、はいっ……!」
皆のおかげで今は力強く頷ける。それから僕のために食事まで作ってくれたり、家の掃除や洗濯までやってくれた。
その間、ユウラはずっと僕に付き添ってくれたけど――。
「ユウラ……?」
ユウラが横になって寝息を立てていた。ずっと僕の特訓に付き合ってくれたんだ。無理をさせちゃったかな。
「少しだけ眠ろうか」
「んん」
うんとも何ともわからない寝言で答えてくれた。僕の手を握ったまま。
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